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過去 ― 噂 ―
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「そういえばコウ、毒蝶って聞いたことあるか?」
いつものように溜まり場であるバーで寛いでいるとチームの中でも比較的年が近く仲が良いタツが話しかけてきた。
「毒を持ってる蝶もいるんすか?タツさん物知りなんすね」
「バカ、そんなん俺だって知んねぇよ。じゃなくて毒蝶つーのは族潰しの名前だよ」
「族潰し?」
「そっ、今巷じゃちょっとした話題だぞ?本名は誰も知らないらしいけどな」
「へぇー・・・・で、その毒蝶がどうしたんすか?」
そう言いながらコウは、今日も残り物として出されたオレンジジュースをズズズとストローで啜っている。"いつもの" と注文して出されたそれはコウの "いつもの" に定着しつつある。不本意であるが。
「・・・・・お前真面目に聞く気ないだろ」
「いつだって大真面目ですよ、俺は」
「はぁ、いいか良く聞けよ?毒蝶が狙うのは力のあるチームだけ。規模が小さく弱いとこはまず狙わない」
「・・・・・・・・?」
「お前意味解ってないな。この街でけっこう名の知れたチームが次々ヤられてる。俺達もいつ狙われるか分かんないぞ」
至極真面目な顔でタツが告げる。
「ははっ、タツさんもしかしてビビってるんすか?」
「あほ、誰がビビるかよそんなもん。俺が気になってるのは毒蝶の正体のほうだ」
「正体?」
「どこどこのチームがヤられたって情報は入るのに、毒蝶に関してはいっさい聞こえてこない。性別や容姿、全てが謎に包まれてる。ただ一つ分かっていることは舞うように戦うってことだけだ。それで付けられた名前が・・・・・」
「毒蝶・・・・」
「そういうこと」
「へへっ」
「・・・・なに笑ってんだよ、気色悪りぃ」
「タツさん、そいつ強いんですよね」
「あ~?まぁ、強いんじゃねぇの?色んなチームが潰されてるんだからな」
押し殺したように笑っていたコウは、そのうち肩を震わせ盛大に笑いだした。
それに目を丸くし、しかし何が可笑しくて笑っているか分からないタツは徐々に不機嫌な顔を顕にしていく。
「コウ、お前いい加減に」
「だったらソイツを倒したら、俺達より強い奴はいなくなるってことっすよね!」
ニヤリと笑うコウに一瞬呆気にとられたタツだが、コウの言葉に笑みを返す。
「お前って本当ポジティブだよな。尊敬するわ」
「それが俺ですから!暗いことばっか考えてたら全然楽しくないですもん!」
「へっ、生意気。だったら俺からもう一つ特別な情報くれてやるよ。・・・・・・・・・・A.Tには気を付けろ」
「・・・・・・・A.T?映画っすか?」
「バカ、そりゃあE.Tだ。A.Tは俺らみたいなチームの名」
「え、でも俺聞いたことないっすよ?」
「まぁ、そりゃそうだろうな。俺も噂だけで実際に見たことないしな」
「どんな奴等なんすか?」
「俺も詳しいことは知らないが、少数精鋭でそれぞれが恐ろしく強いらしい。そのトップは冷酷非道、悪魔みたいな奴なんだと」
「げぇ、なんすかそれ。じゃあ、恨みも色々と買ってるんでしょうね」
「ところがそうでもないらしいぜ?そいつらはめったに表に姿を現さない。いるかどうかも怪しいって言う連中もいるくらいだ。もうすでに都市伝説の域だぜ」
そう言いながらタツは上を見上げ笑う。
ひとしきり笑った後、真面目な顔でコウを見つめ声を潜め言葉を発する。
「だか間違いなくA.Tはいる。火の無い所に煙は立たない。用心するにこしたことはねぇよ」
「・・・・・・・タツさん実は頭良いんすね」
「お前一回〆んぞマジで」
米神に青筋を浮かべたタツに首を絞められる。
でもその手には力が込められておらず、ジャレの一種なのだと分かる。
言葉は乱暴だがいつでも自分を想ってくれるタツが大好きだった。
タツだけじゃなく、カズも、他の皆も、この場所もコウにとっては大切なものだった。
くだらないことを話して、笑いあって、たまに他のチームと喧嘩して、マスターの店でお気に入りを飲んで(コウは強制的にオレンジジュースだが)。
家庭内のゴタゴタにイライラして辿り着いた場所。
そこで会った人達。
いつまでも大切にしたいと思った。
何があっても手離したくない。
失いたくない。
族潰しだかA.Tだかなんだか知らないが来るなら来やがれ!
返り討ちにしてやる!
俺達が負けるなんて絶対ありえないんだから!
コウは掌を丸め拳を作るとギュと強く握りしめた。
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