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過去 ― 傷痕 ―
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時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる。
ある者は椅子から立ち上がったり座ったりと繰り返し、またある者はドアに張り付き外を頻りに気にしている。ある者は喉が渇いているわけでもないのに次から次へと飲み物を喉に流し込む。
コウもまたはやる気持ちを持て余していた。
その指は忙しなくテーブルの上を叩く。
ちらりと時計を見上げると先程からあまり時間が経っていない。
今日は時間が進むのが遅い気がする。
ダンッ!
「だぁぁぁ!もう我慢ならねぇ!じっとしてなんていられるかっ!」
「おいっコウ!」
止める声を無視して店を飛び出した。
もうすぐ日付が変わる時間だからか店の周りに人影はない。
少し離れた所に繁華街のネオンが微かに見える。
どっちに行ったかなんて知らない。
それでも必死に走った。
あの人は大切な場所を守れと言った
俺の大切な場所にはいつもあの人がいる
あの人がいなくちゃ意味がない
だから俺はあの人を守る
ぜってぇ守ってみせる!
大切な人、場所を守るためがむしゃらに走り続ける。
「・・・・はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・くっそ、どこだよっ」
膝に手をつき肩を激しく上下させる。
するとひどく小さな音を鼓膜が拾った。
「・・・・・・?」
それは街灯の灯りさえ届かない細く暗い路地から聞こえてくるようだ。
引き寄せられるようにコウはそこに足を踏み入れた。
散乱しているゴミを避けながら奥へと進んでいく。
「・・・・・っ!な、んだこれっ!どーなってんだよ!」
そこで見た光景にコウは目を驚愕に見開いた。
折り重なるようにして倒れこむ身体。
飛び散る赤。
「・・・・ゴホッ・・・・がはっ・・・・・・・ぅ・・・」
茫然と立ち尽くしていたコウだが苦し気に咳き込むカズを見つけ慌てて駆け寄った。
「・・・・・っ!カズさんカズさんカズさん!!!!」
意識を飛ばしているのか強く揺すっても唸るだけで反応がない。
―― 誰が、こんなっ・・・・・! ――
「あーあ、これはまた派手にヤられたな」
突然後ろから聞こえた声に肩をびくりと跳ねさせた。
勢いよく振り向いた先には、暗くてよく見えないがコウと同い年くらいの少年が壁に凭れるようにして立っていた。
「誰だてめぇ」
強い口調で言い放ちながらもコウはどこか得体の知れない目の前の少年に対して僅な恐怖心を抱いた。
話しかけられるまでまったく気がつかなかった
そればかりか気配すらしなかった
そこまで考えてコウは一つの結論に辿り着いた。
「・・・・・てめぇが毒蝶か」
怒気を含んだ口調に目の前の影は虚を衝かれたような反応をした後吹き出すように笑った。
「ふはっ、俺をあんな蝶擬きと一緒にしないでくれる?・・・・・・すっごい不快だからさ」
声は笑っているがその雰囲気はけして笑えるものではなかった。
例えるなら捕食者のソレ。
目の前にいるはずなのに実体の見えないソレ。
コウの身体は知らず知らず距離をとる。
しかしその影はコウが離れた分だけ距離を詰める。
微かなネオンの光が闇から現れたソレの輪郭を照らし出す。
コウは現れたソレに息を呑んだ。
穢れを知らないかのような漆黒の髪。
唇は妖しく弧を描き、ネオンに照らされ妖しい色に輝く漆黒の瞳。
現実離れしたその容姿にこの世のものではないような気さえした。
「あんたらBLACKだろ?」
「だったらなんだってんだ」
「ふーん」
体の隅々まで舐めるように見られる。
不躾なそれにコウは不快感を隠そうとせず眉間にシワを刻む。
それでも少年は何も言わずさらに距離を詰める。
コウは壁と少年に挟まれる形になった。
頭一つ分低い所にある瞳に気圧される。
ぽつり、ぽつりと雨が地面を濡らす。
「黒き烏合の衆も毒を持った蝶に落ちたか。あんな蝶とも言えないような奴に落とされるとは、お前達はその程度だったということだ」
それだけ言うとソレは闇の中へと消えていった。
完全にその影が見えなくなるとコウは背を壁に擦り付けながらずるずるずると地面に座りこみ、水を降らす空をただぼぅと見上げていた。
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