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二人の子供
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夏の長期休暇を前に浮き足だす校内。
外は茹だるような暑さにもかかわらず冷暖房完備のここはいつだって快適だ。
ミンミン耳障りな音を出す蝉だってちっとも気にならない。
そんなどこかソワソワしている雰囲気の中、隔離校舎の一角でもソワソワ、わいわい、ガヤガヤしていた。
訂正。
ソワソワ、わいわい、ガヤガヤ浮き足だっている者がいた。
「それでさ休みの間はあいつらがどうしてもって言うから帝の別荘に行くんだ!海もあるらしくてさ俺すっげぇ楽しみなんだよな!」
「そう良かったね」
距離感なんてまるでなく目の前にいるにもかかわらず大声で話す遠山に眉を顰めそうになりながらもなんとか平静を装いながら相槌をうつ。
「太一も一緒に行くだろ?皆で行ったほうが楽しいもんな!スイカ割りしようぜ!スイカ割り!」
疑問を投げ掛けておきながら、長山が行くのはすでに決定事項らしい。
実に迷惑なことだ。
「俺は行けないよ。実家に戻って両親のこと手伝わなきゃいけないからね」
「え~!いいじゃんそんなの!夏休みは子供のためにあるんだぞ!そうだ俺から太一の親に言ってやるよ!なぁなぁだから太一も一緒に行こうぜ!」
まるで子供だ。
自分が言えばなんでも思い通りになると本気で思ってる。
眼鏡の奥の瞳はひどく冷たい眼差しで目の前ではしゃぐ子供を見つめているが、外から差し込む光がレンズに反射して白く光っているために遠山がそれに気づくことはなかった。
「それなら行こうかな」
「本当か!」
「うん、両親には遠山から話してくれるんだよね?」
「おう任せ・・」
「俺の両親、すっごく怖くて母さんは結婚する前はプロレスラーだったらしくて今でも体を鍛えてるし、父さんは学生の頃番長だったらしくてすぐ手が出るんだ。だから二人とも凄く怖いんだけど、遠山が言ってくれるなら安心だね」
「・・・・・・・・・・・」
「で?いつ言いに来てくれるの?」
「ぇ、ぁ・・・・あっ!俺用事思い出した!太一もやっぱ家の手伝いしたほうがいいって!うん!父ちゃんと母ちゃんは大事にしたほうがいいもんな!」
青ざめながら遠山にしては珍しく捲し立てるように言うと素早く踵を返し教室から走って出ていってしまった。
それを見ながら長山は悠々とポケットからスマートフォンを取り出し指をスライドさせメールを作成する。
「お前のとこの親いつからそんなに凄くなったんだ?元プロレスラーに元番長?おじさんは営業マンでおばさんは専業主婦だろうが。あんなのほほんとした人のプロレス技とか逆に見てみたいわ」
「嘘も方便って言うでしょ?あんな猿と休み中一緒とかあり得ない。ただでさえ暑いのに余計暑くなるだろうが」
柏木と会話しながらもその指は止まることはない。
そのうち打ち終えたのかスマートフォンを机の上に置き時計を見上げた。
「どっちが先に来るだろうな」
一斉送信で送ったが構わないだろう。
きっと彼等はそんなとこ見もしない。
ただ長山からのメールに歓喜するだけだ。
たとえ何処にいたって急いで長山の元へやってくる。
呼ばれたのは自分だけではないことに気づかぬまま。
そして自分以外の相手を見て驚愕すればいい。
その姿を見るのが楽しみだ。
「・・・・ふははっ」
長山はまるで悪戯を仕掛けた子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
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