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love lover
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1学期終業日。
時刻は午後2時30分。
ホームルームも終わり大抵の者は帰省している時間。ましてや校舎に残っている者などいるはずもない。
カツカツカツ
無人の廊下を規則正しい靴の音が反響する。
一つの部屋の前まで辿り着くとなんの躊躇もなくその扉に手をかけた。
「時間通りに来ましたよ」
その部屋は昼間だというのにカーテンで閉めきられ一切の光の侵入を拒んでいた。
「柚季?」
栗原は自分を呼び出した張本人― 阿南 ―の姿を探す。
「アヤちゃん」
前ばかりに意識を集中していた栗原は、突然後ろからかけられた声に肩をびくりと跳ねさせた。
「・・・柚季驚かさないでください」
「ごめんねー」
「それで?こんな日に呼び出してどうしたんですか?貴方も帰るのでしょう?」
「うん、そうなんだけどやらなきゃいけないことがあるから」
「やらなきゃいけないこと、ですか?」
栗原は普通に話しかけながらもどこか妙な違和感を感じていた。
普段の阿南は人を小馬鹿にするような間延びした話し方をする。
それが今は見受けられない。
阿南ではない、まるで別人と話しているような錯覚に陥る。
「最近の親衛隊の子達様子どう?」
「え?」
「なんかいろいろ大変なんでしょ?」
「え、まぁ」
なんでそれを阿南が知っているのだろう。
阿南には話した覚えはないのだけれど。
栗原の中を疑問が埋め尽くす。
「あの子達は気づいたんだよ?・・・・・・・アヤちゃんはいつ気付くの?」
「柚季?何を言って・・・・」
「アヤちゃんは来須様のこと好き?」
「当たり前じゃないですか」
「例えばどんなところが?」
「どうしてそんなこと貴方に・・・」
「いいから答えて」
「・・・・来須様は一見無口なように見えますが、頭ではいろんなことを考えていらっしゃいます。ただ言葉にするのが苦手で、ご自分の気持ちをお相手に伝えることができません。そのため誤解されることも多くあります。私はあの方の口になりたいんです。いつもお側にお仕えしてあの方の気持ちを代弁してさしあげたい」
「それ本気で言ってるの?」
「もちろんです」
「・・・・ふっ、ははははっ・・・」
突然笑いだした阿南に栗原は眉をしかめる。
「何が可笑しいのですか」
「だって!だって!あははははっ・・・・・それってつまり自己満足ってことでしょ?」
「自己満足・・・・?」
「だってそうでしょ?アヤちゃんは自分の心を満たしたいから来須様を好きでいようとしてるじゃない。口になりたい?来須様にはちゃんと口あるじゃない。そんなのは苦手でも口下手でもないよ。何も言わなくても自分の気持ちを解ってくれるなんてあるわけない。そんなのただ甘えてるだけじゃん」
「柚季、これ以上来須様を侮辱するようなことを言うならたとえ貴方だって許しませんよ」
栗原は普段の淑やかさが嘘のように眉間に皺を寄せ、鋭い目付きで目の前で弛い笑みを浮かべる阿南を睨みつける。
「別に僕嘘は言ってないけど」
「柚季っ!」
「アヤちゃんさぁ~、いいかげん目覚ましなよ。突然やって来た転入生に現を抜かして、生徒会の仕事なんていっさいしない。そんな人達を崇拝する価値が本当にあるの?」
栗原の瞳が大きく見開かれる。
「アヤちゃんだって本当は解ってるんでしょ?認めたくないだけなんだよね?・・・・認めるのが怖いんだよね」
栗原の体は力を失ったように床に崩れ落ちる。
瞳には薄く水の膜が張る。
「・・・・あ、の方は・・・・変わってしまわれた。親衛隊のことを気にかけてくださる優しい方だったのに・・・・今ではその瞳に写してもくださらない。そればかりか邪魔者扱いされて・・・・何人の隊員が涙を流したことか・・・・それでも、それでも・・・・僕は・・・っ!」
「それでも来須様のことが好きなんでしょ?」
止まることを知らない涙がその跡を幾つも頬に刻みつける。
「・・・・好き・・・大好き・・・僕はっ・・・本当にっ・・・!」
「でもさ、もういいよね?疲れたでしょ?楽になってもいいんじゃないかな」
栗原は堰が外れたようにわーわーと声をあげ恥も外聞も無く泣き叫ぶ。
その肩を阿南は慰めるようにポンポンと叩く。
「大丈夫、大丈夫だからね」
しかしその顔はひどく愉しそうだった。
床に額を擦り付け泣く栗原にはそんなこと知るよしもなかった。
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