アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
守るべき者
-
同時刻
別の教室でも対峙している者が二人。
「こんな所に呼び出してなんのつもり?態々来てあげたんだからこれで下らない用だったらただじゃおかないからね!」
あいかわらずの女王様気質で
思ってもけして顔には出さない。
そもそも櫻川碧と下関未来の仲はあまりよろしくない。というよりも下関が一方的に櫻川を敵視しているのだ。
隊は違えど下関の方が親衛隊に属している期間は長い。なのに会長親衛隊の隊長だとか先輩達に可愛がられていたとか前総隊長の任命だとかでなんの努力もせず親衛隊のトップになった櫻川が下関は許せないのだ。
「ちょっと聞いてるの!人を呼びつけておいて無視とかありえないんだけど!」
加えてその容姿。
大和撫子と称される美しさ、反対にその性格はたいそう男らしかった。
その唇は常に優しげな笑みを携え、その瞳は強い光を宿している。
強さと儚さを併せ持つ櫻川に大勢の人間が憧れの眼差しを向けた。
しかし今はどうだろう。
その微笑みは鳴りを潜め、瞳にはなんの光も宿していない。
その表情からはなんの感情も読みとることができない。
喜怒哀楽のない日本人形のようなそれ。
下関はきつい言葉を吐きながらも内心では不気味なそれに恐怖のようなものを感じていた。
「・・・・っ!なんとか言ったらどうなの!」
それでも虚勢を張ることは忘れない。
「お前は何の為に親衛隊の隊長をやっている?」
さらりと吐き出された音に感情は乗っていない。
「はぁ?そんなの柳様のために決まってるじゃない」
わかりきったことを聞くなというように櫻川とは対照的に熱の籠った声を出す。
「あんただって桐生様のために隊長やってるんでしょ?」
櫻川は親衛隊総隊長である前に桐生生徒会長親衛隊の隊長だ。
桐生のことを尊敬し、崇拝しているからこそ親衛隊の隊長をしているのではないのか、そう思い発した言葉だったのだが、櫻川から返ってきたのは下関の想像もしていない答えだった。
「・・・・・・・・・・・僕がお慕いしているのは今も昔もただ一人だけだ。そしてそれは桐生ではない」
「・・・ハァァ?何言ってんの?それに呼び捨て・・・・」
「あの誰よりも強く美しい方を守るためなら僕はなんだってする。あの時そう決めたのだから」
「さっきから何訳分かんないこと言って・・・・」
「下関、お前は誰を守っている?」
櫻川の瞳は最初と同じように強い光を放ち下関を貫く。
「・・・・・守る?・・・は、ははっ・・・ばっかじゃないの?あの方は守られなきゃならないほど弱い人じゃない」
「では何故親衛隊に入った?」
再び繰り返される言葉。
「しつこい。僕はただあの方の側にいれるだけで幸せなの。あの方の視界に入れるだけで」
「だったら何故まだ隊長でいる?」
「だからー」
「いつ柳の目にお前が映った?」
「・・・・・え・・・・?」
「昔のことなど知らないが、少なくとも今の柳は転入生を見ている。お前なぞ眼中にもないだろう」
「・・・・・・っ!!」
「それでもまだお前は親衛隊の隊長でいるのか?」
胸に突き刺さり抉るように発せられる言葉たち。
ギリギリ痛む心臓。ズキズキ痛みだす頭。耳の奥から嫌な音まで聞こえてきた。
「お前は」
「うるさい!!!!そんなことあんたに言われなくったってちゃんと解ってる!!柳様が遠山葉瑠夏しか見ていないことだって知ってるよ!!!それでも好きなんだから!!大好きなんだからしょうがないでしょっ!!!」
ダムが決壊したかのように次から次へと溢れでる涙。
鼻水だって垂れているが、綺麗なものを好む下関だって今だけはそんなもの気にする余裕などない。
下関はただ好きな人の側にいたいがために親衛隊の隊長になったのだろう。
その気持ち櫻川は痛いほど解る。
だからこそ迷っているのだ。
このまま言葉を吐き続けるべきか否か。
『これはお前達にしか出来ないことなんだ。期待してるね』
だけど
そう言ったあの人の気持ちに答えたい
たとえそれで下関の心が壊れたとしても
「お前のことを見もしない人間をこれ以上想う必要がどこにある。そんな価値今の柳に本当にあるのか?」
その一言で下関の身体は硬直し、そして元から微かにヒビが入っていたその心は櫻川の言葉によって亀裂が入り簡単に砕け散った。
下関の心を壊すには十分過ぎる言葉。
「・・・・・ひつ、よう?・・・か・・・ち?・・・・わかんない・・・何が正解?ぼ、くは・・・どうすれば良かったの?」
途端に呂律の回らない幼児のようになってしまった下関を櫻川はなんとも言えない顔で見下ろしていた。
何が正解、か
そんなもの僕にも分からない
あの人にとっては全てがおもちゃであり遊び道具でしかない
本当にそれで良いのか?
櫻川は一瞬浮かんだ考えに緩く頭を振った。
止めよう
今はただあの人に必要とされるおもちゃでいられることへの幸せを噛み締めよう
もう一度、自分の中の明確な答えを見失い静かに涙を流す下関を視界に捕らえると、背を向け静かにその場を後にした。
教室から出るまで一度も振り返ることなく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
71 / 128