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母の力業
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あれからたいした中身のない話をだらだらして、其々が持参したスナック菓子とジュースを飲んで、何度目かになる脇坂と矢崎、澤城のいがみ合いが発生し、東の空が微かに赤みがかってきた頃、漸く解散となった。
家の前で柏木と別れ、静かにドアを開ける。
薄暗くシーンと静まりかえる室内。
極力音を立てず静かに階段を上りきると上着を脱ぎラフな格好になるとベッドに入り一瞬後にはすぐさま夢の世界へと旅立った。
・・・・・・のが今から約4時間前。
今は何故か柏木母の運転する車に乗せられている。
前の母二人は楽しげに会話に花を咲かせているが、
後部座席に座る二人の息子達はなんとも言えない顔でただ揺れる車に身を預けていた。
長山はちらりと横に座る柏木を見やり何故こんなことになったのかと、まだ完全に起きることのない頭で考える。
微睡みの中、微かな声によって意識が浮上した。
気怠い体を無理矢理起こし、欠伸を噛み殺しながら階段を下りる。
「あっ、太ちゃんおはよ~」
能天気ともいえる声でニコニコ話しかけてきた母親の後ろには、これまた笑顔の柏木母の姿。
さらにその後ろでは不機嫌さを隠そうともしない柏木が立っていた。
「おはよう!太一君。さぁ早く車に乗って!」
「・・・・・・は?」
覚醒していない頭ではそれが精一杯だった。
訳も分からず有無を言わせない勢いで車に乗せられた。恐るべし女性(母親)パワーである。
車に揺られること20分。
徐々にはっきりしてきた頭で理解したのは、これから大型ショッピングモールへ行くということ、只今セール中で買う気満々であるということ。
つまり、学校から解放された夏休み初日の朝、寝坊を決め込んでいる息子を起こして都合のいい荷物持ちをGETしたらしい。
それが分かったところで今更どうしようもないが。
それに無理矢理起こした頭は今なお休息を欲している。隣の柏木はすでに揺れる車を揺りかごにして惰眠を貪っているようだ。
深く溜め息を吐き、長山も少しの間、睡眠時間が全然足りていない体を休めることにした。
「・・・・・ゃん・・・・た・・・ちゃん・・・・・太ちゃん」
軽く体を揺すられ薄く瞼を開けた。
眩く射し込む光に思わず開きかけた目を閉じる。
「太ちゃん起きて~。着いたよ」
再度聞こえた聞きなれた声に今度こそゆるりと瞼を上げる。
「おはよ」
「・・・・・・・ん」
狭い車内の中で凝り固まった体を解すように軽く伸びをする。
隣からも身じろぎする気配がしたから柏木も目を覚ましたのだろう。
「さぁ早く行くわよ!セールは待ってくれないんだから!」
快活な柏木母の声に釣られるように外に目を向けると、まだオープン前だというのに入り口には長蛇の列が見える。
今からあの列に混ざるのかと思うとうんざりする。
寝起きだったとはいえ失念していた。
今日は夏休み初日の土曜日。
それが分かっていたら意地でも断ったのに。
後悔先に立たず。
チッと鋭い舌打ちが長山の耳に届いた。
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