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無駄な時間など存在しない
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店内の至る所にある"○%OFF"の文字。
それに釣られる人、人、人。
入ってそうそううんざりした長山と柏木は休憩スペースに置いてあるソファにぐったりと腰を下ろしていた。
ちなみに母親二人は入るなり、
『よし、こっから先は別行動でいいわよ。好きなとこ見てきなさい。2時にまた集合ね。さぁミナちゃん行くわよ!』
『うん!たくさん買い物しようねアキちゃん!』
とかなんとか言って行ってしまった。
最初から別れるのなら一緒に来なくても良かったのではないか。
連れ出された意味が分からない。
自由行動と言われても、この人の波を掻き分けて前に進む勇気はない。
長山と柏木はただひたすら途絶えることのない人の群れを目で追っていた。
足を組み替えながら長山は深く息を吐いた。
「・・・・・智哉、貧乏揺すりはみっともないから止めた方がいいよ」
「うっせ」
「そんなにイライラしても仕方ないだろ。俺もお前も結局母親には勝てないんだから」
「俺をマザコンみたいに言うな」
鋭い舌打ちが飛んできたが、長山はさして気にした風もなくポケットからスマートフォンを取り出した。
真っ黒な画面を見て、電源を切ったままだったことを思い出し電源を入れた。
「・・・・・・っ!?」
その瞬間、鳴り止まないバイブの嵐。
震え続ける携帯端末。
それに珍しく驚いた長山は危うくスマートフォンを落としそうになった。
ようやく止まったそれに短く息を吐き指をスライドさせる。
そして瞳を大きく見開いた。
着信82件、メール64件。
見間違いかともう一度じっくり見てもそれは変わることはない。
メールアイコンをタッチし受信ボックスを開く。
ずらずらと表示される二つの名前。
ずっと下に指をスライドしても同じ名前しか出てこない。この様子だと着信も同じだろう。
最後のメールは今朝の6時頃、それを其々開いた。
数十秒間それを眺めると無言で閉じる。
文脈は違えど内容はほぼ同じ。
つらつら書かれていることを要約すると『言いつけを守ったのだからご褒美が欲しい』というものだった。
阿南はともかく櫻川が長山に強請るようなことを言うのは珍しい。
長山は暫く目を閉じ思案した後、ゆっくり目を開いた。
飼い主の言いつけを守ったんだ
褒めて・・・・ご褒美もやらないとな
長山は弧を描く口許をスマートフォンで隠しほくそ笑んだ。
「太一、それどうにかしろ」
「は?・・・なに?」
「その何を考えてんのか分からない、ほの暗く、ドス暗く、薄気味悪りぃオーラだ」
「・・・・別にそんなもの出してないけど?」
「お前の場合、無自覚なのが一番質悪いな。・・・・・一般人はともかくそんなオーラ垂れ流しにしてたら質の悪い連中は簡単に釣れるぞ。こんなとこで面倒事は御免だからな」
「ふはっ、分かってる」
「・・・・やっぱお前質悪いわ」
柏木は深く大きな溜め息を吐くとソファから立ち上がった。
「行くぞ」
それだけ言うとソファに座ったままの長山をおいて歩いて行く。
こんな人混みの中何処へ行くつもりなのかと疑問に思ったが、ふと店内の時計が目に入ると柏木の行動の理由に納得がいった。
ああ、もうそんな時間か
時計の針は母親達と約束した時間を指していた。
どうやら何をすることもなく、同じ場所で留まり続けた結果、けっこうな時間が過ぎていたらしい。
夏休み初日からこれでは、この先も無駄に時間が過ぎていくのだろうか。
だがこれもまたお楽しみ前の余興だと思えばいい。
フィナーレを楽しく迎える為の試練なのだと。
ドMというわけではないがその為に自分に我慢を強いるのもあんがい気持ちがいいものだ。
長山は人混みに紛れ消え行く柏木を見失わないようあんなに嫌っていた人の波にあっさりと飲まれていった。
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