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絆
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「マスター相変わらずだったね」
「でも白髪増えてたよ~」
「今度育毛剤でもプレゼントしちゃう?」
「それは脱毛だろ。この場合は白髪染めだ」
「でも本当に不思議だよな。客いねぇのになんであの店潰れないんだ?」
「あの店はそう簡単には潰れないさ。この街にある限りはね」
脇坂の疑問に長山は静かに答える。
その声に全員の視線が長山を捉えた。
「あの店はこの街の唯一の良心だ。あの店があるからこの街は栄え、この街があるからあの店があるのさ」
「・・・・・・・?それってどうゆう」
倉橋の声にゆるく顔を振り人差し指を立てそれを唇に当て口角を上げる。
「秘密。どーしても知りたかったら自分で考えな」
「うーん、なら良いよ。調べたところで俺にとって為になることとも思えないからね」
「随分あっさりしてるね。でも瑞季のそういうところ好きだよ」
「ありがとう」
ニコニコ辺りに華が舞うように微笑みあう。
するとそこへ控えめな音が聞こえた。
長山はパーカーのポケットから音の発信源であるスマートフォンを取り出した。
ロックを解除して開くのはメール受信ボックス。
その文字を目で追い笑みを作る。
「誰からですか?」
「ん~柚季から」
「阿南?なんて?」
「えっと・・・・・・」
長山は再度書いてあることを読み頭の中で整理した。そうでもしなければ肝心な内容が伝わらないと思ったのだ。
「『また遊ぼうね』」
「はぁ?」
いくら指をスライドさせても終わらない文字列を纏めた結果、こんな小学生の日記みたいな言葉になったのだが、これでは逆に何も伝わらなかった。
しまった、要約し過ぎたか
「『毎日暇で仕方ないよ。せっかくの夏休みなんだからどこか遊びにいこうね』他にも色々書いてあるけど簡単に言うとこんな感じ」
この長い文章の中に果たして『大好き』『寂しい』『会いたい』と何回出てきただろう。
それだけ好かれていることも解るし悪い気もしないのだが。
ああ、そういえば・・・・・・
長山はスマートフォンから顔を上げ辺りをぐるりと見渡した。
柚季と出会ったのもこの街だったか
懐かしいな
あの頃は・・・・・
暫く思い出に浸っていれば名前を呼ばれた。
「・・・・・太一」
その声に目を向ければ柏木がじっとこちらを見ていた。
「狗を探しに行くんだろ?」
長山はそれに瞳を瞬かせた。
実のところ狗を探しに行くことに対して柏木は余り乗り気ではなかった。
それは柏木にとって色々な弊害があるからなのだが。
それでも自分の我儘を聞いてくれる。
それはけして自惚れではく、柏木が自分のことを好いていてくれている証拠だろう。
そう思うとなんだかむず痒くもあるが悪い気はしない。
「付き合ってくれる?」
上目遣いにじっと目を見て言われる言葉に柏木は呆れを含んだ目で答える。
「それこそ今更だろ」
それに長山の顔は破顔した。
分かっていた返答であるがやはり嬉しいものだ。
しかしそれを面白くないと見ていた他の4人は揃って抗議の声を上げる。
「お、俺も付き合うッス!」
「俺だって付き合うからね」
「楽しそうなことは俺抜きでやっちゃったらダメでしょ~」
「俺も混ぜてもらおうかな」
次々上がる声にますます笑みを深くする。
やっぱりこうやって皆でいるのは楽しいから好きだ
いつまでもこうやって馬鹿なことをして過ごせればいい、長山は綺麗な満月に願いを込め見上げた。
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