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それぞれの事情
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「またね」
そんな軽い一言で狗達に別れを告げる。
あまりにあっさりとした最後に何か言いたげだったがそれは無視して見なかったふりをした。
別にこれが今生の別れでもあるまいし、休みの間にまた会いに行くだろう・・・・・・・・たぶん
そんな不確かな思いを胸にけれど口にはせず、6人は長山を先頭にすでに明るさを取り戻しつつある街を歩く。
綺羅びやかに光っていたはずのネオンも消え、眠らない街は昼の装いへと姿を変える。
人の賑わいが消えた早朝の街には鳥のさえずりとガタンゴトンと線路を走る電車の音だけが聞こえる。
2日連続の朝帰り、これからのことを考えると気分が重くなるがそれは一瞬で吹き飛んだ。
父親は仕事の関係上始発と同時に家を出ることが多い。だから今から帰ったとしても鉢合わせになることはない。
おっとりとした母親は長山が自分で起きるまで声もかけず寝かせておいてくれる。しまいには外から帰ってきても「あれ?いつ起きたの?」と言うしまつだ。時々この天然加減に心配になる。
だから自分はなんとでもなるのだ。むしろ心配なのは。
カーブミラー越しに後ろから付いてくる柏木達を見て次いで脇坂に目を止める。
「清太郎大丈夫?お父さん怒るんじゃない?」
脇坂の父親はまさに絵に描いたような職人気質な人で礼儀にはたいそう厳しい性格だった。まして夜遊びなどもっての他。
「ああ・・・・別にどうってことないっすよ」
脇坂自身はそう言うが、何度も父親との壮絶な喧嘩を見ている長山としては気になる。
頑固一徹な父親と見るからにがらの悪い息子とでは衝突が絶えないのだろう。
「そんなこと言わずに親とは仲良くしなよ」
「・・・・・・・・・・」
脇坂からの返事はない。
脇坂の父親は立派な料理人にさせようと物心がつく前から脇坂に包丁を持たせ、和食とは何かを教え込んだ。
それは高校に上がった今でも変わらない。
いやむしろ厳しくなったというべきか。
本来脇坂は県内随一の料理専門学校に通うはずだった。
それを中学時代なんだかんだと親交があった長山が全寮制の学校へ行くと知り、父親との大喧嘩の末「勝手にしろ!」の一言を勝ち取ったのである。
かくしてはれて長山と同じ学校に通えるようになった脇坂だが、長期休暇には実家に帰り父親と喧嘩をしながら料理の修行をしているのである。
されど脇坂は家を継ぐのが嫌なわけではない。
今では日常になっているが、初めて長山に自分の作った料理を食べてもらった際「美味しいよ」と笑顔で褒めてくれた。
あんなに嬉しかったことは後にも先にもない。
だからこそ父親に料理を教わるのも我慢できる。
長山に自分の作った料理を食べてもらえるのは他の誰にもできない脇坂だけの特権だ。
でもこの人が喜んでくれる料理を作れるのはあのクソ野郎に教わったからで
米粒程度の感謝ならしてやってもいい
眉間に深くシワを刻み顰めっ面で後ろを付いてくる脇坂をクスリと笑い柏木以外のメンバーに声をかける。
「真也達のとこは大丈夫?」
何故柏木以外というと柏木の母親――アキのことは幼い頃からよく知っているからだ。
柏木家は良い意味での放任主義で子供の自主性を尊重し、明らかに馬鹿なことでなければ好きにやってもいい、それで後悔したら自分の所為。
だからこそ今更夜遊びぐらいでグダグダ言わない。
「うーん、大丈夫じゃないかな、たぶん」
「俺のとこも全然だいじょ~ぶぅ」
Vサインで答える澤城に笑う。
「瑞季は?」
「・・・・・・・」
「・・・・・瑞季?」
「ぇ、あ、なに?」
「だから結局朝になっちゃったから、親怒らないかなって」
「ああ、うちは心配しなくても大丈夫だよ」
どこか心ここに在らずといった倉橋に不思議に思いながらも深く追求することはしない。
何かあれば自分から話すだろうし、話さないのであればその程度のことなのだろう。
それは冷たいとかそういうことではなく、いうなれば信頼しているからだ。
悩みを溜め込む質でもないし、その発散方法も知っている。
だから大丈夫。
空の明るさとともに徐々に賑やかになってくる。
このまま街を出れば仕事熱心なサラリーマンの通勤ラッシュに巻き込まれるだろう。
自分は別に構わないが他はそうもいかない。
満員電車に辟易することは目に見えている。
でもそんな姿を見るのも面白い
長山は気付かれないように心の中でそっと笑った。
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