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昼近くまで惰眠を貪り、時々柏木達と共に夜の街を徘徊したりと特別なこともなくなんだかんだと夏休みも気付けば半分が過ぎようとしていた。
そして今日、珍しく早く(といってもすでに10時だが)に目が覚め、二度寝を決め込もうと思った矢先スマートフォンが無機質な音で着信を知らせた。
机の上のそれに腕を伸ばし手繰り寄せ相手を確認することなく切った。
しかし続けざまにかかってきたそれに眉を顰め仕方なく応答する。
「・・・・・・・・・・・・・・もしもし」
『やっほ~太ちゃん、柚季だよ!』
ブチッ
出て3秒で後悔した。
しかし再びかかってきたそれに深く息を吐いて覚悟を決めると幸せな時間に別れを告げ電波の向こうに答える。その頃には眠気などすっかり吹き飛んでいた。
『も~酷いよ~、いきなり切るなんて~』
「柚季、今何時だと思ってるの?」
『え~?もう10時だよ?』
そうだ世間はすでに動いている。
流れに逆らっているのは自分の方だと長山はベッドから起き上がりぐっと伸びをした。
「それで何の用?」
『えっとね~』
柚季の声に艶が混じった。
例えるならあの学校で親衛隊の隊長をしている時のような。
それに嫌な予感がして通話を遮断しようと手を動かすより早くその声は長山の耳に届いてしまった。
『宿題手伝って~!!』
「ヤダ」
鼓膜を突き破りそうなほどの音で発せられたそれに長山はたった一言で返した。
『え~!なんで?いいじゃん減るもんでもないんだし~』
「減る、俺の時間が確実に減る」
『ケチケチケチ~太ちゃんのケ~チ』
なんと言われようと長山の考えは変わらない。
そもそも阿南は手伝ってと言ったのだ、教えてではなく。
阿南の言うお願いとやらに答えれば十中八九面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。
だからなんとしても断ろうと思ったのだか、
『ねぇいいでしょ太ちゃん?一生のお願いだから』
一生のお願いなどと人が何回口にするであろう言葉まで飛び出し長山は電話口に聞こえるよう態と大袈裟に息を吐いた。
「・・・・・・分かった」
『わ~い太ちゃん大好きー』
なんでこんなに柚季に弱いんだろ
長山は疑問を心の中で投げ掛けた。
しかしそれに答えるものは誰もいない。
それからあーだこーだと押し問答をして結局長山と阿南の家の調度中間の最寄り駅近くのファミレスで会うことになった。
「太ちゃんこっちこっちー」
長山が中に入るとすでに阿南が来ていたようで派手に手を振られて名前まで呼ばれた。
今が夏休みといっても平日の昼間で人が少なかったからよかったもののあまり目立つような言動は止めてもらいたい。
それを阿南に言ったところで無駄だろうけど。
「柚季公共の場では静かに」
「え~でも人なんて殆どいないよ?」
「それでも」
長山の言葉に阿南はぶーぶーと不満を顕にした。
「・・・・・なんだ、これは」
長山はテーブルの上に置かれた白い紙を前にして唖然としていた。
「えへっ」
「誤魔化すな。夏休みが半分以上過ぎたというのに何故どの教科も手がつけられてないんだ」
「だから言ったでしょ?手伝ってて」
見事に真っ白なそれに言葉をなくし呆れ果てる。
こうなることは予想がついていたけれども。
「・・・・・・・・・・はぁ、どれからやる?」
「あはっ太ちゃんだーいすき」
阿南に必要以上に甘い自分に呆れ潰れる1日に覚悟した。
「柚季そこ違う」
「え?どこ?」
「それ、これはaの体積を求めるんだから、こっちの・・・・」
「え、あっそっか・・・・・てか太ちゃん手伝ってくれるんじゃなかったの?」
「一緒にやるとは言ったけど手伝うとは言ってないよ」
「太ちゃんのケチンボ」
阿南は長山を恨みがましく見つめるとオレンジジュースをストローでズズズと音をたて飲んだ。
「ぁ、終わっちゃった。ちょっと待ってて」
「ドリンクバーだけでいつまで粘る気なの?」
「終わるまでだよー」
無意識のうちに投げ掛けた言葉はグラスを持って走る阿南の耳にきちんと届いていたらしい。
長山はドリンクバーの前で次は何を飲もうかと悩んでいる阿南を見て苦笑した。
俺にこんな我儘言うのは柚季だけだな
だがそれを長山自身嫌いではない。
ご満悦な表情で戻ってくる阿南を見ながら優しげな音を発した。
「続きやろうか。少しぐらいなら手伝ってあげるから」
阿南は一瞬ポカンとした後目を細め笑った。
「ふふっ、やっぱり太ちゃんだー」
こんな1日も悪くない。
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