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被告のいない裁判
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ただでさえ全校生徒が集まりガヤガヤ騒がしい体育館に驚愕と疑問の声がさざ波のように拡がっていく。
その原因は普段公式の行事に現れることのない隔離校舎の生徒達がそろって現れたからだ。
開いたスペースに塊を成して座る集団を一般生徒達は遠巻きに様子を伺う。
長山もまたその塊に紛れるように座った。
いつまでたっても止まないざわめきは始業式の開始のアナウンスとともに徐々に収束していく。
理事長、校長の長ったらしい挨拶が終わり、滞りなく進行しているように見えた。
しかし生徒達はある違和感を感じていた。
通例ならあるはずの生徒会長―桐生帝の挨拶がないのだ。そればかりか他の生徒会役員達の姿さえない。
アナウンスにより始業式の終了が告げられる。
ますます大きくなるざわめき。
そして鳴海の登場により違和感は確信へと変わる。
「始業式ご苦労だった。疲れているところ申し訳ないが、もう暫く付き合ってもらいたい。これはこの先の君達の学校生活に関わってくる重要なことである」
マイクを通して発せられるその凜とした声にざわめきはざわざわと囁き合うものに変わった。
壇上の鳴海は一度本来なら生徒会役員達がいるはずの場所に目を向けると再び前を見据え口を開いた。
隔離校舎の生徒に囲まれながら一般生徒と化した長山は唇に弧を描きその様子を見つめていた。
さぁ始まる
馬鹿どもへの断罪だ
「知っていると思うが今この場に生徒会はいない。夏休みが昨日で終了したにも関わらず、だ。これは生徒会だからといって許されることではない。いやむしろ生徒会だからこそ、生徒達の見本となりうる人間のすることではない」
法の番人でもある鳴海の厳しい言葉を一般生徒達は真剣な眼差しで耳を傾ける。
「そればかりでなく学校祭の準備もいっさい行っていない」
その言葉に一気にどよめきたち、「なんで」「どうして」と疑問の声が飛び交う。
それもそのはず、如月高校学校祭は巷では有名であり他校の生徒なども訪れとても華やかなものになる。1年を通して行われる行事の中でも1番の盛り上がりを見せる。誰もが楽しみにしているのである。
その準備がなされていないというのは生徒達にとっては信じられないことであった。
「これまでも授業の欠席、生徒会業務の放棄などその行いには呆れるものがあった。しかしここまでは様子を見てきた。いつか真面目に仕事をしていた奴等に戻ってくれるのではないかと。しかし奴等は自分の行いを顧みるどころかますます酷くなる。今日は大事な始業式だというのに姿も見せない」
鳴海が手を上げると舞台袖から5人の風紀委員らしき生徒達が出てくる。
舞台上に並ぶように立つ5人の手にはそれぞれ沢山の紙が抱えられている。
「聡い者なら見当つくだろうがこれらは全てリコールの賛成署名だ。これだけの人間が現生徒会のリコールを望んでいる」
失望、驚愕、賛同する声が飛び交い収拾がつかないほど混乱する生徒達を一喝するようにバンッとわざと派手な音をたて演台を叩く。
とたんにシーンと静まりかえる生徒達。
「そこで最後の決断を君達に委ねたい。リコールに賛成する者は拍手を」
・・・・・・パチ・・・・・・・パチ
パチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ぱらぱらと鳴るそれは次第に共鳴しあい大きな音となり辺りに木霊する。
それらを静かに見ていた鳴海は再度手を上げた。徐々に小さくなる拍手。
鳴海はそれを確認すると静かに口を開いた。
判決が下される。
「風紀委員会委員長鳴海公平の名においてここに現生徒会のリコールを宣言する」
爆発的に起こる歓喜の声とけたたましいぐらいの拍手の音。
誰もが待ちわび、誰もが望んだ。
いつまでも鳴り止むことのないその音に長山の唇は歪な形で笑みを作る。
全ては長山の思い通りに動いている。
だがこのまま簡単には終わらせない
あいつらにはさらに地獄を見てもらう
全ては自分が愉しむ為。
「お愉しみはまだまだこれからだ」
長山の真っ黒に染め上げられた言葉は、歓声に掻き消され誰の耳にも届くことはなかった。
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