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一番の被害者達
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「しっかり捕まえておけと言っただろう」
声のそのまた向こうではすいませんと頭を下げる委員。
「おい!無視するなよ!」
キーキー煩く喚く遠山を鳴海は冷たく見下ろした。
「帝達を悪く言うな!こいつらはちゃんと仕事してたぞ!謝れよ!」
「ほぅ、では証拠を見せてもらおうか。仕事をやっていたという証拠を」
「証拠?そんなのなくったって信じてやれよ!友達だろ!」
「友達だと?こいつらと友達になった覚えなどない」
「なんでそんな酷いこと言うんだよ!わかった、あんた寂しいんだろ。寂しいからそんな冷たいこと言うんだ。でもこれからは大丈夫だ!俺が側にいてやるからな!だからそんな悲しいこと言っちゃっダメだ!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
この猿、いや地球外生命体は何を言っているのだろう。誰がいつそんなことを言った。
誰か通訳を。
鳴海は生まれてはじめて他人に助けを求めた。
「葉瑠夏、そんな奴にかまうんじゃねぇ」
「そうですよ。早く行きましょう」
「向こうでお菓子食べよ~」
「葉瑠夏の好きなものいっぱい用意してあるよ」
「・・・・・・行く」
桐生は未だキーキー五月蝿い遠山の手首を掴み、柳、宮内兄弟、栗原は遠山を守るようにその周りを囲み、階段を下りる。
「おい、まだ話は終わってない」
「お黙りなさい。あなたと話すことなど何もありません」
「それはどうだろうな」
食堂の出入り口を塞ぐように立つ大勢の生徒達。
「俺とはなくてもそいつらとはあるだろ」
「てめぇらなんのつもりだ。とっとと道を開けろ」
桐生は壁となり立ち塞がる生徒達を睨み付け威圧的な声を出す。
それをものともせず壁から一歩前へ出たのは桐生会長親衛隊隊長兼全ての親衛隊を纏める親衛隊総隊長の櫻川碧。
「お久しぶりです、桐生様」
「なんの用だ、櫻川」
「1つ伝えなければいけないことがありまして」
櫻川はニッコリと笑みを浮かべると、
「お前には失望した、桐生」
声のトーンを落とし酷く冷めた目で桐生を見つめた。
突然の変貌に驚いたのは対面している遠山達だ。
「少しの間なら目を瞑ろうと思った。お前達もまだ子供だ。遊びたい盛りだろうと。だが少しで終わらなかった。お前達は権利をいいように使い授業に参加せず、あまつさえ生徒会の仕事さえ放棄した。もはや尊敬するに値しない」
「・・・・・・僕は・・・・ただ貴方をお慕いしていて・・・・貴方の為ならと、どんな・・・ことだってした」
か細い声で話始めたのは柳副会長親衛隊隊長の下関未来。
いつもの強気な態度はどこへ行ったのかと言いたくなるほどそれは大人しいものだった。
瞳はただ虚空を見つめるだけで柳に焦点が合うことはない。
「だけど貴方は一度だって僕達に答えてくれることはなかった。僕は本当に貴方を愛していたのに!」
床に膝を付き泣き崩れる下関の頭を阿南が労るように撫でる。
それに頭を振り拒絶の意思を示す。らしくないことするな、と。
「僕は正直君達のことなんてどーでもいいけど~。僕が好きなのはこの世界でたった1人だけだからね~」
宮内兄弟会計親衛隊隊長の阿南柚季の長山を匂わせる物言いに櫻川はキッと睨み付ける。
「でも流石の僕でも幻滅しちゃったよ。最低限の仕事さえまともにできないなんて呆れて笑うこともできない。それってさ~、ただのバカがすることだよね」
顔に似合わず吐き出される言葉は辛辣。
「ほらアヤちゃんもなんか言って」
「いや、私は・・・・・・」
「アヤちゃん」
咎めるように言う阿南に意を決したように前を見据え淡々と言葉を紡ぐのは来須書記親衛隊隊長の栗原菖蒲。
「私は貴方の全てを理解しているつもりでした。でも実際は何一つ理解していなかった。貴方のことが解りません。私は・・・・いえ僕はこれからも貴方の隊長で居続けることができません」
言いたいこと全てを言いきった栗原は俯いた。
まるでもう何も見たくないというように。
後ろにいる其々の隊員達は自分達の隊長の言葉を悲しげな面持ちで聞いていた。
それら全てを見届けた櫻川は最後に強く言い放つ。
「本日をもって全親衛隊を解散する!」
それに親衛隊に属しておらず遠くの方で静観していた一般生徒達から驚きの声が上がる。
「うほぉ、マジかよ」
「え、てことはそれって」
「ああ、これから大変なことになるんじゃね?あいつら」
「御愁傷様」
勿論そんなこと聞こえているはずはなく。
「本当かお前ら!お前らもやっとわかってくれたんだな!こいつらにそんなもの必要ないって!良かったなお前ら!これからはお前らに友達いっぱいできるな!」
遠山の耳は失望云々より最後の解散だけを聞き取ったらしい。
役員は役員で自分のことのように喜ぶ遠山に感動すら覚えた。
役員達の頭にも最初に鳴海に言われたことなど残っていなかった。
そんな役員達を鳴海は階段の上から見下ろす。
そして胸元からテープレコーダーを取り出した。
カチリ
静かに動き出すそれ。
未だに異分子を囲むそれらは気付かない。
これから訪れる本当の絶望を。
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