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傍観者達
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誰もいない廊下を長山は1人静かに歩く。
実のところテープレコーダーを鳴海に渡したのは長山だったりする。
あの日、夏休み最終日。
鳴海と対峙した長山は立ち去る際ドアの前にテープレコーダーを置いた。
それには先程のようなやり取りが延々と録音されていた。遠山に連れ回される時も懐に忍ばせ、生徒会室に連れ込まれた時はテーブルの下に貼り付け、次に連れ込まれる時にそれを回収するといった具合に下準備は完璧だった。
もちろん少しだけ長山の声が入らないように加工を施したが。
しかしそれを鳴海が使うかどうかは正直賭けだった。いや賭けなどと不確かなものではない。
長山には確かな確信があった。
遠山達の行動に一番被害を受け辟易していたのは誰でもない鳴海自身だ。
何者かも未だはっきりと分からない長山の手を借りるなど凄まじい葛藤があったに違いない。
それでも鳴海はそれを使用した。
最後の手段として。
使い方は悪くない
使いどころも悪くない
まぁギリ合格ってところか
遠くで午後の授業開始のチャイムが鳴る。
それを頭の隅で聞き流しながら、はたしてあの場にいた者達は次の授業に間に合ったのか、正直長山にとってどうでもいいことを考えていた。
外からでも分かるほど教室の中は俄に盛り上がっている。
「おかえり」
教室のドアを開け入ってきた長山を倉橋は笑顔で迎えた。
「ただいま」
それに笑顔で返し向かったのは教室のほぼ中央で1つのパソコンを覗きこんでいる集団。
その真ん中でマウス片手になにやら作業をしている矢崎に話しかけた。
「真也どんな感じ?」
「チャイムがなっても誰も動かなかったんだけど、委員長の声で皆各々教室に走っていったよ。ああ、でも生徒会はずっと茫然と突っ立っていたけど。見るでしょ?」
「うん」
矢崎が空けてくれたそこ、パソコンの正面に座る。
「じゃ行くよ」
マウスでカチリとクリックすれば映像が動き出す。
ガヤガヤと賑わう生徒達。
そこへ鳴海が入ってくる。
しっかりとした足取りで五月蝿く騒いでいる遠山達の元へと歩いて近づく。
これは先程行われた食堂での出来事だ。
正確に云えば食堂の監視カメラの映像だ。
この学校は企業の後継者が多く預けられている。
その子供達に何かあっては大変だと校内の至る所に監視カメラが仕掛けられている。
それは多くの生徒が一同に集まる食堂も例外ではない。むしろそんな食堂だからこそ死角もないくらい沢山のカメラが仕掛けられている。
本来ならそれらの映像は警備室でしか見ることができないのだが、情報を盗み操ることに長けている矢崎はそれをハッキングという形で自分のパソコンに転送している。
『はーなーせー!!!』
画面の向こうは遠山が風紀委員に連れていかれる場面まで進んでいた。
『次はお前達の番だ、生徒会』
そこから鳴海は再度リコールを告げる。
ここまでは長山も実際に見ていたから知っている。
「面白いのはここからだよ」
長山の後ろで立って画面を見ている矢崎は声を弾ませながら言う。
「へぇー・・・」
矢崎が言うなら本当なのだろう。
長山は食い入るように画面を見つめた。
『だが俺も鬼ではない。お前達に最後のチャンスを与える』
『・・・・チャ・ン・・ス・・・?』
鳴海の言葉をたぶん無意識だろう柳が聞き返す。
『お前達のリコールに反対する者、つまりそんなお前達を未だに尊敬している者達の、お前達に生徒会で居続けてほしいという声を多く集めてこれたならリコールを取り下げる』
それを聞くなり生徒会は一目散に食堂を後にした。
生徒会の頭には連れていかれた遠山のことなど微塵もないことだろう。
そこで映像は終わった。
「あいつ甘すぎないか?」
「だよね~」
脇坂の呟きに珍しく同意した澤城。
「そうでもないよ」
それを長山は真っ向から否定した。
「あれは思っていたよりも曲者みたいだね」
「どういうこと?」
「今の生徒会に誰が期待すると思う?誰も期待などしないさ、それは今まで見てきたなかでも明らかだ。あれはそれを解っていながらわざとああ言ったんだ」
だから曲者だと。
「さてお馬鹿さん達はどんな面白いことをしてくれるのかな」
見物だな
映像は鳴海の顔で止まっている。
長山はそれを愉悦を含んだ瞳で見つめていた。
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