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Episode4 『初対面、初手合わせ』 ①
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自分から離れようとしない花岡を入学式が行われている体育館へ放り投げ、霧間は校舎の見回りをしていた。
今日は入学式で、新入生以外は休校となるため、生徒は校舎から離れた寮で過ごすか、外へ遊びに行くかに限られる。
しかし、大人しくしていられない生徒がしばしばいる。
入学式ということを利用し、新入生をターゲットに悪事を働く者が出てくるのだ。
――クズの行動はわかりやすい
霧間はそんなことを思いながら、最上階である4階に上った。
ここの階は、3年生の教室があり、今年度からは霧間もここを使うことになる。
霧間は自分がF組であることを知っていた。
まだ新学期が始まっていないため、当然クラス発表はされていなかったが、これも風紀委員長の特権である。
当日クラス表に群がる男子のむさ苦しい状況の中から、自分の名前を見付けるのはかなり面倒なことだと霧間は考え、先に関山に教えてもらったのだ。
高嶺桜は大体1学年7クラスで編成されている。
クラス番号はアルファベットで表記され、AからGクラスまである。
A、B、C……と教室を通り過ぎてゆく霧間。
いつもなら耳障りなほど賑やかな教室も、今日という日は面白いくらい静まり返っている。
体育館から距離がある校舎は、誰もいないように思えた。
――今日現れるクズはさっきのくらいか……
霧間は人の気配が全くしない廊下を歩きながら、そう判断し、G組の方向にある階段を目指した。
D、E……そしてF組に差し掛かったその時だった。
「!」
――誰か、居る?
F組の教室にたった一人、窓側の一番後ろの席に座っている男がいたのだ。
その男は椅子に寄りかかり、伸ばした長い両足を机の上に置いている。
腕を後頭部に組む態勢で、開いた窓から淡い水色の空を見つめていた。
優しい風が窓を通るたび、男の銀の髪が揺れる。
男は、特に危害を及ぼす様子がなかったので霧間は無視して通り過ぎることもできた。
しかし、そうはしなかった。
何故なら、その銀髪の男に見覚えが無かったからだ。
男は霧間から見て、反対側を向いているため、顔は見えない。
だが、風に揺れる銀髪、モデルを思い浮かばせる程の長い手足。
なにより、目を惹かれるオーラがある。
そのような男が霧間の記憶に残らないはずがないのだ。
霧間は高校2年の秋に編入してきた。
今現在、高校3年生の春を迎え、約半年という年月の間、高嶺桜にいることになる。
裏を返せば、約半年しか過ごしていないのだが、霧間の洞察力と記憶力は並みではない。
今まで喧嘩を売ってきた不良、すれ違った生徒。
霧間は高嶺桜高校の全生徒の顔をほぼ記憶していた。
それにもかかわらず、あの男の顔は一度も霧間の記憶になかったのだ。
当然、霧間は男に違和感を覚え、足を止める。
「君、だれ?」
霧間は少しイラついていた。
どの教室も、ドアは開かれている。
つまり、廊下と教室を遮るものは何もなかった、ということだ。
それなのに、霧間はその男の気配に気付くことができなかった。
――僕が人間の気配に気付かない訳がない。
明らかに苛立った霧間の声に、男は空を見ながら肩を揺らして笑いを堪えているようだった。
その態度が霧間の怒りを煽る。
霧間はゆっくりと男に近付き、未だにそっぽを向いている生意気な顔を拝見しようと手を伸ばし、ネクタイを引っぱった
はずだった――――
「!?」
刹那、男に伸ばした霧間の手は強い力で摑まれた。
そして、もの凄い力で引き寄せられた。
霧間と男の間には、ほんの数センチしか隙間が無い。
霧間が咄嗟に踏みとどまっていなかったら唇が合わさっていたかもしれない。
それから、男は初めて口を開く。
「王生、皇だ。覚えとけ、霧間慎弥」
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