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Episode7 『偽言』 ①
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――目が痛い。
――身体が言う事を聞かない…。
久しぶりに姿を現した村上に不覚を取られた霧間は、ベッドに寝かされていた。
ぼんやりではあるが意識が戻り、気絶する前の出来事を思い出す。
今から約四か月前、漆戸組との一件が終わってから、しつこいくらい霧間に付き纏っていた村上はぱたりと姿を現さなくなった。
そして、今日この日、村上は霧間の前に何の前触れもなく現れた。
――明らかに、奴(村上)の雰囲気は変わっていた
空白の四か月という期間。
村上に何があったのか霧間にとって知ったことではなかった。
しかし、意識を失う前、村上と正面から向き合ったあの時、霧間は違和感を感じていた。
村上の目は、以前のような血の気が多い、だが、純粋に強さを追い求める生き生きとした目をしていなかったのだ。
らしくない冷徹な、死んだような目。
その奥に、執着に似た、何かを欲しているような感情があったのだ。
そういえば、と霧間は思い出す。
村上が姿を消してから、数日後、ヤクザと関わっているという噂が流れたことがあった。
――まさか――…?
とりあえず、霧間は自分の今置かれている状況を把握しようと、重い瞼をゆっくりと開けた。
村上にかけられた催涙スプレーのせいで、当初よりはだいぶマシだが、目はまだジンジンと沁みる。
スタンガンの影響かどうかはわからないが、痺れとだるさが重なり、身体は簡単に動かすことができない。
だからと言って、眼球だけを動かすと激痛が走るため、できるだけ目に負担をかけないように窓の位置や雰囲気だけで今自分が居る場所を推測する。
――ここは…誰かの寮室
寮室は大体どの部屋もベッドや家具、窓は同じデザインで、似たような位置に配置されているため、高嶺桜の寮室だと判別するのは難しくない。
寮室内は、普通の男子高校生の部屋といった雰囲気だ。
しかし、霧間自身の部屋ではなく、見ず知らずの人間の部屋であることは確かだった。
霧間自身はベッドに仰向けに寝かされており、暑くもなく寒くもないこの春の季節には丁度良い、薄い布団が丁寧に掛けられていた。
着ていたはずのブレザーは脱がされていて、窓辺のフックに掛けられてある。
ネクタイも外され、ブレザーのポケットにガサツではあるが入れられていて、緑の布地*がチラリと顔を出していた。
――ここに連れてきたのは、村上か?それにしては…
扱いが丁寧過ぎる。
仮にも、霧間は幾度に渡って、村上を喧嘩で容赦なく負かしてきた。
しかも、空白の四か月の前、最後に顔を合わせたのは漆戸組との最悪な状況だ。
漆戸組の一件では、村上が勝手に首を突っ込んできたこともあるが、元凶は霧間であり、霧間が巻き込んだと言っても過言ではない。
今日この日、久しぶりに霧間の前に姿を現した村上。
4人の不良を連れ、報復のため霧間を待ち伏せしていたと考えるのが妥当だ。
しかし、報復するためにとった行動なら、霧間が催涙スプレーをかけられて身動きできなかった時に痛めつけることは出来たはずだった。
寧ろ、村上は、それを止めていた。
理解し兼ねる村上の行動に、底知れない不穏感を覚えた霧間は、痺れて言う事の聞かない身体を必死に動かす。
「…っ……」
しかし、霧間が思っているよりも身体は重く、まるで自分の身体ではないようだった。
やっとのことで四つん這いになり、ずるずると進む。
ブレザーを取ろうと、ベッドから足を下ろそうとしたその時だった。
ガチャ…
「!!」
部屋のドアが開くと同時に、その音に気を取られた霧間は体重をかけていた腕をベッドからはみ出してしまう。
鉛のように重い身体は重力に逆らうことなく、霧間はガクンと頭から落下した。
はずだった。
村上が素早い動きで前に腕を回し霧間の身体を支えていた。
「そんな身体でどこに行くつもりだったんだ?霧間ぁ…」
*高嶺桜高校の制服は黒のブレザー。ネクタイは学年によって赤・青・緑とカラーが決まっている。1年の花岡は赤、2年は青、霧間、村上、王生ら3年は緑色。
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