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絹雲
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「お前は、将来太夫になるんだよ」
物心付いた頃からそう言われて育って来た俺は、その言葉通りの道を進んだ。
「人一倍おっとりしたお前が本当に太夫になるなんて」
そう言った先代の顔は、とても嬉しそうだった。
躾や芸事の稽古の厳しさに耐えられるか心配だったそうだ。
赤ん坊の頃にここに連れて来られて、生みの親の顔は当然思い出せない。
でも、虐げられたりする事も無く大事に育てて貰った。
それに見世でお客を取る陰間の多くはここで育って居るから、血の繋がりは無くても兄弟が多いので寂しくは無い。
「絹雲太夫」
「……涼兄さん?」
「失礼致します」
美しい所作で襖を開けて、番頭が入ってくる。
「涼兄さん!」
いつもは禿の稔が呼びに来るのに珍しい事も有るものだ。
嬉しくて嬉しくて、思わず抱きついた。
「絹雲太夫、離して下さい」
「やだ!」
「離しなさい」
「えー……」
「えーじゃない!離せ!」
まあ、仕事だろうと渋々離れたら、涼兄さんも渋面だった。
腑に落ちない。
「稔はどうしたの?」
「風邪で寝込んでる」
「そう……桃でも買ってあげて。あいつ好きでしょ?」
財布から札を取り出して渡すと、頭を撫でられた。
いつ迄経っても子供扱いだなと思いつつ、そうしてくれるのが嬉しかったりもする。
「お前も一丁前に太夫になったんだねぇ」
「そりゃあ、もう昇格して半年以上経つんだから」
「そうだね。…じゃなくて!四朗さんがお見えだよ」
「了解」
「もう雲の間にお通ししてるから」
「はーい」
渡り廊下で別棟の客間まで向かう。幾分涼しくなって来た宵の口の風を感じながら、今日はどんな文句で口説かれるのかと考えていた。
「四朗様」
「どうぞ」
部屋の前で呼びかける。
中に入れば、先ずは三つ指を付いてご挨拶だ。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
「堅苦しい挨拶は結構ですよ、此方へ」
「はい」
四朗さんはその名の通り名家の四男坊だ。
家では私の存在は有って無い様なものです、おかげで自由にさせて貰ってますがね。
との言葉通り、ちょこちょとこ遊びに来てくれる。
もう上に三人も男が居たものだから、名前も適当に付けられたんですよ。
というのが持ちネタなんだと涼兄さんから聞いたっけ。
「何時になったら私だけの絹雲になってくれるんです?」
「四朗様が本当の名前を教えて下さったら、何時でも」
「それは残念だ」
こんなやり取りも何時もの事で、しつこく食い下がるなんて不粋な事はしない。
四朗さんの遊び方は上手でとても好きだ。
「ねぇ、今日はどう致します?四朗様のお好きなワインを冷やしてあるのだけど」
「乾杯は後にしましょう。おいで」
しな垂れかかっていた身体を、畳に敷いてある寝具に横たえられる。
割れた裾から自身が覗いて居た。
「やはり紫の襦袢にして正解でしたね。貴方の肌によく映える」
今日の着物は、四朗さんが俺の為に仕立てて贈ってくれた物だ。
太腿を指先でなぞられて吐息が漏れる。
「……は、」
「知っていますか?紫は秘め事の色だそうですよ」
「そう、なんですか」
如何にも四朗さんらしいチョイスだ。
そういえば、欲求不満の色なんてのも聞いた事がある。
「いやらしくて美しい貴方にぴったりだ、そうでしょう?」
はだけた胸元に舌を這わせても、肝心な所にはかすりもしない。
「あ、やだ……」
「何が?もう濡れているのに」
ものを軽く撫でられただけで体が跳ねた。
この人とは体の相性がすこぶる良いらしい。
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