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稔
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ああ、熱なんか出して寝込むなんて、僕の馬鹿。
絹雲兄さんに付いてから一年弱が過ぎて、ようやくきちんと仕事もこなせるようになって来たのに。
初めて太夫付きになって、頑張ろうって決めたのに。
絹雲兄さんにがっかりされたんじゃないかな。
望兄さんにも叱られるかもしれない。
それから、それから……。
ああ、やっぱり具合が悪いと弱気になっていけない。
そう思いながら眠りについた。
「……のる…みのる」
「ん……」
「稔」
「ん、りょ、にいさん?」
「汗かいたでしょ?着替えよう」
絞ったタオルで汗を拭いて、寝巻きを着替えさせてくれる。
もっと幼い頃は、よく熱を出して涼兄さんや望兄さんが世話してくれたっけ。
竜胆(りんどう)兄さんも、退屈だろうとこっそり漫画や本を持って来てくれた。
風邪だとかインフルエンザとか、感染症にかかった時に隔離されるこの部屋は、辛い症状と重なるせいか未だに好きになれない。
「お粥、作って貰ったから。梅干しとか漬物も持って来たから、ちょっとでもいいから食べな」
「でも、食べたくない……」
「残してもいいから。ほら、桃も剥いたよ」
お前、好きだろう?
と涼兄さんが微笑む。
「桃、どうしたの?」
「絹雲が、稔に買ってあげてって。心配してるんだよ、お前の事」
「絹雲兄さんが」
一口齧ってみれば、渇いた喉に果汁が沁み渡る。
何だか泣きたくなった。
「りょ、にいさ……ごめ、んなさい」
「いいから。ほら、食べなよ。今は風邪治すのが仕事!」
「うん、たべる」
「いい子」
頭を撫でられて、ほっとする。
幼児返りでもしてしまったのだろうか、僕は。
「食べたら、薬飲むんだよ。一人で大丈夫?」
「大丈夫、です」
「じゃ、行くからね。ゆっくり寝なよ」
「はい」
涼兄さんが出て行く。
本当は、ちょっと寂しいけれど我儘は言えないし。
とにかく、今は治す事を考えなくちゃ。
お粥を冷ましながら食べ始めたら、襖の向こうで涼兄さんに叱られる祐樹の声が聞こえて、ちょっと笑ってしまった。
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