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鬼灯
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陰間の朝は遅い。
店仕舞いが午前四時で寝始めるのが大体六時頃。
休みの前の日はちょっと遅くまで起きて居る人や、そのまま寝ずに出掛ける人も居るけれど、大体昼頃までは皆寝て居る。
しかし十二時の食事に間に合わなければ夕方まで食いっぱぐれるから、大体その前には起き始める。
食事は陰間やその格、番頭、厨房等分け隔てなく皆で食べると決まっているから太夫も例外では無いんだけれど……。
最近水揚げしたばかりの僕は中々このサイクルに慣れない。
水揚げの少し前から慣らしては居たものの、仕事後の疲労感にまだ慣れなくて。
でも、どうしても起きられなかった時はこっそり料理長の寛さんがおにぎりを持って来てくれたりするんだけどね。
僕は、皆でわいわいとご飯を食べるのが好きだ。
「ちょっと霧雨!また嫌いな物朝露の器に入れたでしょ!」
「……朝露が欲しがってたんですよ涼兄さん」
「俺もニンジン嫌いー……」
「人参はお肌に良いのよ!つべこべ言わずに食べなさい!」
何時ものように賑やかだ。
涼兄さんも注意するけど、竜也兄さんは美容の事となると熱くなるもんなぁ。
でも実際、板前さん達が栄養バランスとか考えて作ってくれているんだろうし。
と思いながら味噌汁をすする。
今日の具は大好きな大根とお揚げで、
「んー、幸せ!」
思わず声が漏れた。
「お前、その具好きだよな」
「はい!美味しいです」
最近、望兄さんに色々と教えて貰う事が多いから自然と隣に居る事が増えた。
「ほら、牡丹見習いなさい!あんなに美味しそうに食べてるじゃないの!」
「おかわり下さい」
「お前何杯目?何でそれで太らないんだよ」
「薄氷と違って鍛えてるから」
「あっそ……」
牡丹兄さんは上背はあっても細身に見えるのに、あの体の何処にそんなに入るのかと何時も不思議に思う。
男ばかりだから、皆良く食べるけれどあの人は別格だ。
「牡丹みたいなのが居ると賄いも作り甲斐があるよ」
牡丹兄さんが来てからの寛さんは腕が鳴ると前より更に楽しそう。
「ね、紫苑の玉子焼き一口頂戴」
「じゃあ絹雲兄さんの玉子も一口欲しい」
「あのね、お前達それ意味ないから……。味付け同じだからね?」
すかさず竜胆兄さんが突っ込む。
太夫の二人は真面目だし頭も良いの筈なのに何処か抜けて居ると思う。
絶対に言えないけれど。
紫苑の貰うのが美味しいのに……と絹雲兄さんがぶつぶつ言っている。
結局、紫苑兄さんに宥められてお互い玉子を食べさせあっていた。
「リア充爆発しろ……!」
「おいやめろ薄氷」
薄氷兄さんの謎の呪文もいつもの事だ。
「稔、良くなったねぇ」
「心配かけてごめん、祐樹」
「ほんと、心配したぞ」
「透兄さんも、ありがとう」
透兄さんが、禿の二人の頭を撫でている。
皆のお兄ちゃん的存在だけど、あの二人と居るとお父さんぽく見えるのは内緒だ。
「寛てめぇ、また煮物に椎茸入れやがったな!」
「だから旦那の器には入れてねぇでしょうが!」
「匂いが付いてんだよ!」
「それくらい我慢して下さいよ!あんた良い大人じゃないか!!」
最近先代が隠居して旦那になった庄之助さんは、苦み走った男前なのに椎茸が嫌いでよく寛さんと喧嘩して居る。
でも文句をいいながらも結局美味しいって食べているのが可愛らしいと、子供の頃から密かに皆言っている。
「楽しそうだな、鬼灯」
「皆で食べるの、好きだから」
「そうか」
仕事には厳しい望兄さんが柔らかく笑う。
何のかんの言いながら、見世の人間が一堂に会するこの時間は、皆笑顔です。
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