アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
望
-
薄氷が、お客のお見送りをすっぽかしたと透から聞いた。
今迄一度もそんな事の無かったあいつが。
父親に半ば売られるような形で此処へやって来て、この仕事に抵抗があっただろう初めの頃でさえ、しっかりやって居たのに。
よっぽどの事情があるに違いない。
それにしたって、下の者に示しがつかないから説教の1つもしなければならないが。
店仕舞いが終わる頃、苦々しい気持ちで薄氷を事務所に呼び出した。
「お前、何で此処に呼ばれたかは分かってるよな?」
「はい……申し訳ございません」
「……何年仕事してる?こんな新人でも御法度だと分かる事やらかすなんざ、覚悟は出来てるんだろうな」
「はい」
自暴自棄になってもしょうがない様な状態でも努力して来た薄氷にこんな事を言うのは心苦しいが、こればかりは仕方無い。
「まぁ、事と次第によっちゃ今回は厳重注意だけで済ましてやる。……一体何があった?」
「……それが、」
困惑した様子で話し出した薄氷の言葉に、度肝を抜かれる事になった。
「本物の、四朗さんだと?」
「はい、確かにそう言ったんです」
その言葉に呆気に取られる薄氷を残して、そのお客はさっさと帰ってしまったそうだ。
「お前、その話……」
「まだ、誰にも」
「そうか……とりあえず、現役には話すなよ。絹雲には特にだ」
「はい」
「今から涼と竜也と透も呼ぶから、その話してくれ」
「……分かりました」
こういう街だ。
可笑しな客だって掃いて捨てるほどその辺をほっつき歩いてる。
それにしたって。
「うちの太夫の太客を騙るたぁ、良い度胸してんじゃねぇか」
俺が遣り手になって初めての大事だ。
何としてもこの手で解決してやる。
俺の表情に、すぐそばで薄氷が青ざめているのなんて、つゆとも知らなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
27 / 29