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寛
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料理番が煙草なんか吸うなと、昔から庄之助さんには五月蝿く言われていたっけ。
1日半箱も吸わないんだから、ちょっとくらい許してほしい。
朝から晩までバタバタと忙しい俺の僅かな至福のひと時なのだから。
庄之助さん曰く、お小言は椎茸の恨みらしい。
渋い見た目して子供っぽいんだよなぁ。
なんて、勝手口の外でぼんやりと一服していたのに。
「おう、ヒロ兄!丁度いいや」
声をかけて来たのは望だった。
いや、それどころか涼に竜也に透と薄氷まで。
面倒な匂いしかしない。
「何だよ、面倒事はごめんだぜ」
「きゃー!寛さんハードボイルド!」
「竜也ったら、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「そうだったわね」
涼と竜也が揃うと、何だか女の子と話してるみたいな気分になるんだよな……。
「寛さん、前に竜也と話してたっていう人の話を聞きたいんですが」
流石に透はしっかりしている。
本題はそれか。
しかし。
「竜也と話してた、て言われてもなぁ」
こいつとは一服しながら与太話を散々して居るし。
「ほら、夏頃に陰間に間違えられたって人よ!上背があって、綺麗な顔してて、首に痣があってって言ってたじゃない」
「……ああ!そんな事もあったな、俺の方が綺麗だけど」
「えっ、寛兄さんもそこなの?」
もって何だよ涼。
「で、そいつがどうしたって言うんだよ」
望達の話は、やっぱり面倒臭いものだった。
「本物の四朗さん、ねぇ」
「ヒロ兄は何処で声かけられたんだよ」
「花街の通りを歩いてた時だよ。何処の見世だって聞かれてな」
「その時、何て言われたの?」
聞いてきた涼の顔は半笑いだ。
楽しんでやがるなこいつ。
「女の子みたいな顔してるね、てな」
涼が吹き出した。
俺が誰だか忘れて居るようだな。
「涼、晩飯抜きたいか?」
「ごめんごめん!それで?」
「お前さんのがよっぽど女の子だろって言い返してやろうかと思ったけどお客になるかもしれないだろ?」
「そうよねぇ」
「だから、俺はなるみ屋って見世の料理番で、陰間は器量のいいのばかりだから指名してやってくれって言ったんだよ」
「……その時は、四朗さんの事何も言ってませんでした?」
そういや薄氷も居たんだった。
殆ど空気みたいになってたな。
「いや、なぁんも……。ただ、身なりは良かったし、若いから良いとこのぼんぼんかなとは思ったけどな」
「ああ、確かにそうですね」
「それこそ本人が陰間でもやってそうな器量だったよな」
実際に接客した透と薄氷が、沈痛な面持ちで俯いてしまった。
「まあ、あんなのがこの街で遊びまわってりゃ、すぐ噂になりそうなもんだけどな」
軽い気持ちで言ったこの言葉が、すぐに現実になるなんて思ってもみなかった。
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