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反発と説得
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それから数日後のある日
この日、貴仁はもうかれこれ15分ほど、龍希に目を合わせてもらえないでいた。
共に食卓に座り食後の珈琲を楽しむいつもの時間なのに。
である。
それもこれも、貴仁があの話を早速龍希へ伝えたからに他ならない。
あまりにも思った通りの、いや、思った以上に拒否感が大きすぎる雰囲気に、
早くも伝え方を後悔しているのは貴仁だ。
『………唐突すぎたかもしれない。』
そう考えながらも、崩すに崩せない無言の空間に視線を泳がせる。
そして、俯いたり、そっぽを向いたりと、自分の方を見ない龍希を前に視線を止め瞳を閉じると
口を開き無言を終わらせた。
努めて柔らかく優しい口調で。
「龍希、突然すぎたな、ごめん、いいよ。急ぐ話じゃないし、今日はもうこの話は止めよう。」
その言葉に、パッと顔をあげ、ようやく貴仁の方を見た龍希だったが、またすぐにしょげたような顔で目を反らした。
おそらく、「とりあえず今日は止めておこう」と言った表現が気になったに違いない。
怒っている顔ではない、あくまで、至極残念そうにしょげている。
事実、龍希は悔しくて、残念でならなかったのだ。
だって、彼はこんな事を目標に掲げていたからだ。
それは、何時だって、貴仁が何かを頼んできてくれたなら、
その提案や願いを二つ返事で、いいよ!まかせといて!と笑って叶えてやりたいと言うことだ。
貴仁がそうであるように、龍希もまた、彼を愛し守ってあげたくてならなかった。
けれど、これは二つ返事でとはいかない。
理由はいくつかある。
その中にはどうしても、
「貴仁はストレートだから解らないんだ」
と言う主観のものが混じってしまっている。
少し、例えばの話をしよう。
胸を張ってカミングアウトすればいい。
と、言う人がいてくれるのは嬉しいし、嫌ではない。けれど、それをしないことを何故?!と問い詰められて困るシーンは稀にある
カミングアウトは自由である。隠している訳ではない人もいるからだ。
隠している訳ではなく、ただ、当たり前の事として祝福される世の中であったとしても、言うことではないと思っている。と、ただそれだけの考えの人も沢山居る。
この国に今、欲しいのは、
ただ、周りと同じではない、あらゆるマイノリティを、
そういうタイプも居るよね。と存在する事の当たり前をそのまま、当たり前に受けてくれれば良いのに。というところである。
さて、そうは言ったものの、これは話の例えである。
龍希がカミングアウトを嫌がるのは、彼にその考えが有るからだけではなかった。
彼の場合は、本当に怯えているだけである。
これまで、親に頼れる事もなく生きて感じてきたあらゆる感情がその恐怖心と迷いを生んでいるのだろう。
相手は自分の友人でも親でもない、貴仁の友人だ。
万が一、認めてもらえない結果となったならどうなるか?
貴仁が、友人を無くすと言う事に繋がる可能性がゼロではない。
それが、怖かった。
自分の友人や親ならば、自分が辛いだけで終わる
そんなのはかまわない。
けれど、貴仁が信頼している仲間を失うなどと、そんな事は辛くて辛くて、考えるだけで震えが出た
「……龍希、なぁ、ごめん。俺ももう少し考えるから……今日は止めよう?」
あまりに前進しない会話に、貴仁は思わず
この考え自体を見直してみると言うようなニュアンスの言葉をかけていた。
その場しのぎのようなものだった。
そして、
わかっていたつもりで、これは、思った以上に何倍も説得が難しいかもしれないなと、
表に出さない小さなため息を心で溢した。
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