アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
反発と説得
-
翌日、龍希は仕事の間も昨日の事が気になってならなかった。
うわの空、とまではいかないがいつもの覇気も活気もない店長の様子にいち早く気付くのはやはり
まぁこである。
「……絶対何か悩みごとでしょ?店長。」
そして彼女の良いところ……おそらくは、良いところだと思うが……それは、物怖じせず感じた事を当人に素直に聞けてしまうところであった。
「……おまえは本当に羨ましい性格してるよね。」
何か悩みごとですか?や、どうかしましたか?等ではなく、絶対悩みごとでしょ?と言う訪ねかたに、彼女の凄さを改める龍希だった。
「悩み事、彼女ですね?ふふーん。聞いてあげてもいいですよ?女の気持ちは女が一番良く解るんですから」
「あー、はいはい。まぁこはそりゃあとびきり女らしいし女子力高いし、よく解ってくれそうだなぁー。」
まともに彼女の顔を見ることもなく、
まるで棒読みで飛び出した龍希のそれに
でた!店長の性悪!!笑顔で人を刺すタイプ!!
と叫ぶまぁこに、横で聞いていたバイトの男子が、「女子力たかーい!まぁこさん!!」などと冷やかしを入れるのを耳に、
龍希は昨日から数えてもまだ少なかった笑顔をケラケラと見せる事ができた。
こうしている変わらない時間が有ることが昔から龍希の救いであった。
もう無理だと諦めた恋が実った。
キスもした。抱きあった。世に言うセックスとは違う触れ合うだけのそれかもしれないが、
それでもあの貴仁に触れられた。触れてもらえた。
もうそれだけで気持ちが追い付くのにいっぱいいっぱいなのだが、
ここにきて、カミングアウトを望んできた。
しかも貴仁の友人や親友に。
龍希は、どういう考え方をすればいいのか?それがすでに掴めずにいた。
大いに悩んだが、何故かそれをけんちゃんに相談はしなかった。
これはもう、自分の気持ちだけの問題だ。
そう思ったからだ。
けんちゃんに答えを求める事ではない。それは筋が違う。
龍希にそう思わせる程に、彼にとってカミングアウトとは大きな出来事となるのだ。
結局、そんな悩みを、日々の日常と言う変わらぬ時間に救われながら何日かたっぷりと考える事となった。
さて、貴仁はと言えば、その間、幸いなのかどうなのか、落ち着いてしまっている仕事量の空きすぎた時間を使って
日々、こちらはけんちゃんの力を大いに借りて悩んでいた。
「それがね、龍ちゃんたら、ひとつも何も言ってこないのよ?何度か遊び来てるし、メールもしてるのに、まるでその事に触れてこないわ。いつも通り元気な龍ちゃんよ?ノロケが少し減っただけのね。」
けんちゃんから電話で伝えられたその事実に、
貴仁は、あー!!と頭をかきむしる。
唯でさえセットも何もされていない髪はぐちゃぐちゃだ。
自分の恋人はなんて格好のいい男なのか。
きっと自分の問題だと割りきってちゃんと一人で考え悩んでいるのだ。
対等すぎる。いや、自分の弱さを考えればそれ以上かもしれない。
こんな相手を愛してきた事が無い。と思わされていた。
対等であると言う事から見えてきてしまう、責任や己が持つべき強さという現実。
それがこんなに恐いだなんて。
幼い頃から、周りに自分を見てくれる人が大勢いて、常に気にかけられ、愛されてきたと言う自分の背景がこんなにも、相手を想うときの枷になるとは。
こんなにも自分に弱さを作るとは………
そこまで考え、貴仁はふ、と思い直した。
「……違うな、それは言い訳だ。愛を知ってるのは、愛を与えられるって証拠だ。」
独り言を呟くと、
やっぱり。
と、貴仁は龍希に比べ情けの無い自分の頬をペチペチと自分で叩き叱咤する。
やっぱり、俺はカミングアウトをするべきだと思う、それは、絶対に遠い未来、間違いにはならないはずなんだ。
それだけは確かなんだ。と、幾度めかの決意をしたのであった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
67 / 90