アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
反発と説得
-
「……それなら、龍希は、信じてくれてるの?
俺がちゃんと本当の気持ちで、愛しているよって、この先もずっと一緒に居たいよと伝えているの、疑いもなく信じてくれている?………ねぇ、壁を作ってるのはそっちだろう?」
試すような、意地悪な言葉に
貴仁は言い過ぎたかもしれない嫌悪を、
龍希は図星からくる怒りを感じた。
人は図星をつかれると、感情を乱すものである。
龍希も勿論、同じだ。
見開いた瞳をキッと貴仁に向け、悔しそうに唇を噛む。龍希は震える言葉を紡いだ
「…な、それは…………何だよ、こんな性格なの、女々しくてネガティブで面倒だろうって解ってるよ!?でも、そうなっちゃうんだ、仕方ないじゃん!……解っているよ……そんなん、解っているくせに……、あんたが今それ言うのかよ?!!」
ガタン!
龍希は感情の高ぶりに任せて椅子から立ち上がる。
それを受け、貴仁も座ったままだが姿勢を変え、声を荒立ててしまう。
「……そうだよ、俺だって今これを言った自分の事、器の小さな奴だと思ったさ!だけど、それでも信じてくれやしないのは、本当だろ?!
信じてくれなきゃ、俺だってな、不安にもなるんだよ………そんなんもわかんねぇのかよ?!」
「だからっっ!そんなんわかってるって言ってんじゃん!!!」
「っ、わかってんなら少しは変えろよ?!」
それはもう、売り言葉に買い言葉。
子供のような言い合いに他ならない。
けれど、普段から互いに感じていた小さな不安の全てが今、姿を出してきて、
お互いを想い合うからこそ言わないできたそれらは、言葉になったとたんに、お互いを責め合うモノになる。
「………!!!なにそれ……、もぅ!何だよ!解ってるって言ってんじゃんかよぉ!………てかさ、だいたいカミングアウトって何だよ!何で必要なんだよ?!
貴仁さんはさ、誰かに話したいの?!あれだ、オレみたいなゲイに興味が有るだとか思ってるんでしょ?得意気にさ自分がゲイと付き合ってるってさ!?」
「……っ?!はぁ?ンだよそれ!お前なぁ、何でそうなんだよ?!……お前こそ何なんだよ、俺がそんな考えで、お前を好きでいると思ってるのか!」
すでにどちらも言い過ぎている事は頭のどこか片隅にはあるものの、
見付けられなくなっていて、勢いだけで出された言葉は無意味な悪口にだけ、姿を変えていく
「……っっ!!!そんなん!……思ってなんか……な、いっっ……」
自分の投げた言葉に追い詰められて顔をぐちゃぐちゃにしながら押し上げるあらゆる感情に堪えている龍希に、こんなのはただのガキの喧嘩だと先に冷静を取り戻したのは貴仁の方だった。
呼吸を整えると、落ち着かせた声で龍希の名を呼び
ごめんな、言い過ぎた。
と、貴仁も立ち上がると、龍希の頬に触れようと手を伸ばす。
「………!!!」
しかし、龍希はそれをはね除け拒否した。
おそらくは貴仁と恋人同士になってから、初めて自分から拒否したものだっただろう。
あんなに恋い焦がれたその手を拒否した
それには龍希自身も驚いた。
貴仁はもっと驚いたのだろう。
少しだけ龍希へ向けた表情に、不信感を滲ませた。
それは、ほんの一瞬、ほんの少しだけ。
龍希はそれを見逃せず、焦ってしまった。
その焦りは、頭の中でダメだと言う自分を無視して叫ぶように
すでに良し悪しも選べなくなった言葉たちをぶちまけた。
「……そもそもさ……そもそも貴仁さんには解んないんだよ!だってノンケじゃん!それとも、何?バイセクシャルだとか言うの?!だとしたら、そんなの、お手軽なセクシャリティだね?!」
それは本当に最悪な言葉たち。
悪意に満ちたそれ。
貴仁は瞳を僅かに揺らすと、そこから温度を無くしていった。穏やかに、ゆっくりと
「……わかった、悪かった、この事は、もう少し考えるから……」
そう言うと、その口から大きなため息を溢した。
龍希の頭がいっきに冷めるのに十分な大きさのため息だ。
そして、「ごめんな」と言うと貴仁は少しだけ寂しそうに笑むと、振り向かずにその場を去った。
最悪だ。最低だ。
龍希は自分を殴って殴って、それでもまだ殴ってやりたい衝動に駆られた
今、言ってはいけない言葉だった。
そもそも、ゲイだのバイだのノンケだの、自分は何を別け隔てているのだ?
それらを関係なく思えればいいのに。などと他の人間に望んでおきながら
何故、自分で自分を差別してるのか?
「……だって、怖い………」
もうすでに立ち去って姿が無い貴仁に言うかのように
聞こえもしない事をわかって呟く。
「……今更そんなの、怖い……」
知らない感情が増えすぎている。
自分を構築してきた、【自分を隠さなきゃいけない環境】でしか、生き方を知らない。
カミングアウト……してみたい。知って欲しい。俺の恋人は貴仁さんです!と笑ってみたい。
でも、そんな未来の描きかたを知らないし、してはいけない事だと教わってきた。
「………っ」
ボロボロと涙が零れた
もう、聞こえないはずの、大好きな大好きな人の自分へと向けられたため息が
大きく耳に響いていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 90