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反発と説得
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結局、二人はその後顔を合わさず各々の部屋に籠った。
貴仁は眠れぬままに、読書にせいを出した。
貴仁の部屋と龍希の部屋とは少しだけ離れている
とは言え、部屋を出てすぐの廊下を数歩も行けばそこが互いの部屋だ。
恋人同士になったとは言え
それまでの生活リズムは変えられずにいるため
二人はだいたいいつも各々の部屋で別々に寝る事が多い。
夜中になり、なかなか寝付けないでいた貴仁は部屋を出ると台所へ喉を潤しに向かった。
ふと台所を見ると、そこには龍希が立っていて、こちらに気付くと、
「……あっ」
と、小さく呟く。
こちらを見つめている瞳が潤んでいる気がした。
貴仁がその名を呼ぼうと口を開くよりも一瞬早く、
龍希は貴仁へと駆け寄る。
そして、そのままぶつかるように抱きついた。
声にならない声と、ともに。
「……?!龍??」
思わぬ出来事に、貴仁が驚いていると、龍希の声が小さく呟いた
「………ごめん、なさい、」
その言葉は2度3度と繰り返され、肩は小さく震え、声はいつの間にかしゃくりあげるような泣き声に変わっていた
貴仁は少しだけもらい泣きをしそうなのをこらえ
「…いいよ、俺こそ言い過ぎた、ごめん。」
と言い、自分とさほど変わらぬ背丈の男の頭をぽんぽんとたたく。何故だろう、気持ちが自然と穏やかになる。龍希の声は辛そうに響くのに、だ。
「……貴仁さん、ごめんね、オレ、怖いんだ……」
そう言う龍希の、この「ごめんね」は貴方の願いを聞いてあげられなくてごめんなさい。なのだろうなと、理解するのは容易な事だった。
そして、龍希は自分の本音を告げる。
耳にした貴仁のため息が彼に素直にそれをさせた。
貴仁に嫌われたくない、立ち去られたくない、それなら本音をちゃんと言おう。
そう思ったのだ
「オレね、カミングアウトの経験がない。
だから素直に不安だよ。怖いんだよ。
しかも貴仁さんの、友達が相手だなんて、尚更なんだ……だって、自分じゃないから……」
「……自分じゃあないから?」
龍希の言葉に少し不思議に思った貴仁はそれを聞き返す。
龍希は変わらず抱きついたままで頷くと続けた
「うん、何かあったとき、万が一理解が難しい時、友達と気まづくなるのは貴仁さんだ。……最悪、親友を失うのは……貴仁さんなんだ……」
そんなの、怖くて仕方ないじゃないか……!と、吐き出すように言うと、うぅ、と泣き声をこぼした。
それは、辛そうな告白だったが、
貴仁には優しすぎる告白に聞こえた
こんなにもこいつは優しい温度を俺にくれるのか
俺の事を想って、俺を傷付けたくなくて。
それがわかった今、貴仁も全て本音を話さなければと思えた。大好きなこの男をこんなにも泣かせてまで進めたいカミングアウトの理由を。全て。
「ねぇ、龍希、カミングアウトしたいのはね。お前を守りたいからなんだ。勝手でごめんね。」
そう言うと、龍希を抱き締める力を更に少しだけ強めた。
「あのね、俺は、お前が大好きだよ。
恋人になれたことを本当に喜んでいる。
だから、この先もずっと、生涯を通してずっとお前の隣に居たい、お前の涙も笑顔も全部守りたい。」
きっと龍希は、今真っ赤になって聞いているだろうというのは、自分の背に回された龍希の手が、ぎゅうっと力を込めたられた事で理解した
「…だから、俺さ、お前より10も歳が上な事が本当に悔しいんだ。お前をね、残して去るかもしれない事が悔しい。」
抱きついたままに聞いていた龍希は、その目を大きく見開いた。
何を言っているのか?と、思わざるを得ない言葉が聞こえたからだ。
貴仁はそんな龍希の体温を感じながら、さらに続けた
「死んでしまったらお前を守れないなんて、物足りないよ。あのね、俺はそりゃあ、ストレートだけど、お前達がそこまで結婚や、証しなんてものに期待も執着もしていないのは、なんとなく理解してる。
俺だって結婚したいとか、夫婦になりたいとか、そこに拘ってるんじゃあない、そうではなくて、
……何て言うかさ、愛したよ。という証を自分達以外に何も残せないなんて、そんなの、俺は嫌なんだ。それは、今の不安の材料だと思えてならないんだ。」
二人は、自然とほどかれた互いの腕を大切そうにつたいながら、抱き合っていた身体を離した。
そして、龍希はあまりの告白に、驚いた顔のまま貴仁を見つめる。キラキラと輝くような瞳だ
「だから、俺が例え居なくなった先でも、俺の恋人だと認識したままでお前と接してくれるような友人を知った人間の中に1人でも増やしたい。……身勝手かもしれない、でも俺は、そうやってお前を、どの先までもずっと守りたいんだ。不安を拭いたいんだ。」
龍希はポカンと口を開けて頭を整理した
嘘みたいな告白だ。信じるなんて出来るだろうか?
生涯を誓うなんて告白、自分の人生に有り得るなど思いもしなかった。
愛した証しなんて、そんなものは得られなくて然るべき人生なのだと思っていた。
何より、自分の事を先の先までもずっと想っていたいと考えてくれるなんて。
信じるなんて……
「……ううん、違う、信じたいや。」
思わず声にして出てしまった言葉に龍希は自分が喜んでいる事を理解した。
何がなんでもと強く求められたカミングアウトのあまりに優しいその理由に
目の周りに小さな小さな星たちが散りばめられているような気分になった。
チカチカ、キラキラと世界が輝いているようで、
自分は世界一幸せなゲイなんじゃないの?などと
頭に浮かぶあまりに可笑しなその台詞にあははと笑えてしまった。
ふふっと笑う龍希に貴仁が、何だよ、真面目な話だぞ。とやはりふふふと笑い、その額にキスをして囁く。
「……難しい?それとも、信じてくれる?」
龍希は額に宿る優しい温度を嬉しそうに受け入れると、その囁きに、うん。と頷き
再び貴仁に抱きつくと、その耳元でそっと告げた。
「ありがとう。……オレ、貴仁さんの友達と仲良くなれるかな?」
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