アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
カミングアウト
-
樹の姿勢の良さに引っ張られたのか、
龍希はその場に立ち上がるとピン!と背筋を伸ばして樹の言葉を待った。……待った、の、だが、
頭を下げた樹はその姿のまま言葉を発する事もない。
「………、あ、の、」
次第に、頭を下げられている事が申し訳なくなった龍希が声をかけると、
樹がその姿勢は変える事なく、顎を上げた分だけ持ち上がった顔から、視線をほんの少龍希へ向けて必死な声色で言うのだ。
「……待って!あの!言葉を……今度はちゃんと言葉を選んでますっ!」
そして、再び視線も顔も床へと向けられ美しいお辞儀をキープした。
「……っふっ、ははっ!」
その様子に龍希も思わず吹き出し、とりあえず顔をあげてくださいよ!と、樹の顔を覗き込むようにして伝える。
さっきまでの息苦しさなど、嘘のようなその笑いに龍希は何だか至極楽しい時を感じるのだった。
そして、それは、今日と言う日を迎えて良かったと言う答えに直結する。
「っ!!あのっ!龍希さんっ!俺は、本当にいっつもいっつも仕事以外ではとにかくダメで!言葉が下手で!言葉の仕事してるくせに、プライベートだとてんでダメで!なので、あの、本当にごめんなさい!そりゃ、びっくりはしたし、興味とかが無いって言ったら嘘になりますけど!本当に!バカになんてしてませんから!!!」
それだけは本当だから!!と顔を上げ、目を見てしっかりと伝える樹はとても立派に見えた。
「……はい、いいです、樹さんは持って当然の疑問を持っただけだし、オレも気持ちが不安定すぎたし、だから、どっちがって無しにしましょう?謝るのも無し。」
龍希は何だか目の前の男ととても仲良くなれそうだなと思った。
それは何故かいつだって勝手に感じてしまう、ゲイだの、ノンケだのという隔たりを何も感じないで、そう思ったのだ。
何より、今なら先程の疑問にも何の蟠りもなく答えられそうだ。いや、答えたい。
「……因みに、さっきの質問に答えさせてもらっていいですか?あのね、勿論全員がじゃないけど、女役とかも言うほど明確じゃない人が多いと思うなぁ。これは、俺の勝手な考えだけど、どっちも男でどっちも女って、感じ。」
えへへ、と何の戸惑いも無く、やんちゃな少年のような笑顔で龍希が言うものだから、樹は少しだけポカンとしてそれを聞くと、
そっか。と笑い
「これで、ひとつ知れたや。また他にも知りたいっす。失礼かもしんないけど、失礼な事もそうでない事も、沢山、知っていきたいっす。」
樹も同じく子供のような笑いを浮かべてみせる。
そう言う事だよな。
龍希は樹の言葉に1人納得すると、うん、と頷いた。
そう言う事なのだ。
先に出てしまう言葉はどうやったって傷つける可能性を持っている。失礼か?だとかは最低限のマナーとしては必要であれ、大きく考えすぎても会話は生まれないだろう。
それは仕方ない事で、それを恐れていては知ることも知れないのだ。
『……責められたとか、バカにされたとか、こっちも勝手に思ってたらダメだよな。』
龍希は頭の中でぼんやりとそう呟くと、貴仁の言った、【環境が生んだ勘違い】の話と、今しがた樹が口にした【失礼でもその失礼を沢山知っていきたい】と言う言葉とが、一本の線で繋がったような気がした。
恋愛なんて、多くは感情論だ。繊細で難しい問題と言える。
その人の僅かな心次第で、ノンケやバイセクシャルだなんてのは変化するだろう。
何かをクリアしたからセクマイと認めるとか、何かをクリアしているから貴方はノンケだとか、
認める認めないの話では到底なくて
『当たり前じゃなきゃ、ダメなんだよな。自分と少し異なる部分を当たり前に受け取ったりさ、知らないなら知ればいいと思えたり、それを特別な知識とは思わずに。それがきっと。必要なんだ。』
何だかもう長い事、自分は何かを間違って勝手に恐れてきていたのではないだろうか?
普通と言う言葉を無くすのは無理でも
普通じゃないと唱える数を減らすのは可能だ
必要なのは、特異を認めてあげなくちゃと頑張る事ではない。
可能なようなら、それを受け入れ、不可能ならば、そっと認知するだけに留める事だ。
この国に必要なのは、きっとそこだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 90