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カミングアウト
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まだ寝るには早くはあったが、普段あまり酔わない龍希なので、心配もあり貴仁が肩を貸すと、
1人で行けるよ!貴仁さんはここに居なきゃ!
などと龍希がそれを断る。満面の笑顔で。
「……ふっ、わかったよ、気を付けろよ?」
とても楽しそうな龍希を見送る貴仁も至極嬉しそうで
何より、この男が今日と言う日を笑顔で終わらせられている喜びを感じるのだ
「龍、寝付けなかったら来いよ?俺はまだしばらくこっちに居るからな。」
最近少しばかり寝付きも夢見も良くない自分を知っての言葉だなと思うと、龍希は、あぁ、この人は本当にオレを甘やかす天才だなぁと思いながら、はーい!と答える
「……ったく、あんなに酔ってんの、初めて見るぞ……」
貴仁は、楽しそうだな、とその後ろ姿を愛しく見送りながら、ふと気付いて
「……あぁ、そうか、」
また独り言のように小さく呟く
「……嬉しいのか、そうか、嬉しいんだ。きっと。」
それに気付けて貴仁は自分もまた、心から嬉しくなる。
今日を迎えて良かった。
そう思う気持ちを確認しながら、それでも……
と、少し残る不安要素を見つけるように振り返り、居間の3人を見つめ、
「……正直、驚いたよお前らがこんなにすんなり受け入れてくれるなんてな、……まぁ、このまま素直に終わればの、話だけどな。」
感謝の笑顔と、後に覗かせるのは、何か有るのか?と少しの含み笑顔。
その貴仁のよこした含みに、純也があははと笑い、伝えた
「ご名答だな、……そもそもなぁ、龍希くん目の前にして云々文句を言える訳がねぇだろ。まだ全部すっかり受け入れも、認めもしてねぇよ。悪いけどな。」
カミングアウトはここからだぜ。と全員のグラスに酒を注いで純也が胡座をかきなおす。
樹と真奈も、それを受け、純也によって酒のつがれたグラスを手にすると少しだけ真剣な表情に変わる。
少なからず、この二人もまだまだ受け入れ難い部分があるからの事だろう。
貴仁はよく知るこの純也と言う男の言葉に、やっぱりなと頷くと「何から話す?」と自分のグラスを向かい合う3人へ掲げるように持ち上げて言ったそれを受け、先に口を開いたのはやはり純也だった。
「……まず、お前だよ。お前が、いつ、どのタイミングで何を思って龍希くんを、しっかり自分と同じ大人の男と理解したうえで恋愛対象だと認めたかだ。俺の知る貴仁ってぇのは、バカ真面目で、もっとうんと保守的で頭の固い男なはずだからな。」
純也の瞳は間違いなく先程までの優しいそれではなくなっていた。
すると、貴仁にその問いへ答える間も与えないかのように、続けて真奈が口を開く
「あ、あのっ、私は、素敵だと思うし、もう私の中では受け入れられてる気がしますし、これは、責めるのでなくて、疑問ですっ!
あの、……多分、ですけど、龍希さんは、少し、繊細な所ありますよね?
繊細だったり、打たれ弱さも有ると、ひょっとしたらそれに対しての同情とか、かな、て。少しだけ、気になると言うか……」
後半、少し弱気になったのか、シドロモドロと言った言い方な真奈の言葉に被せるように樹が横から口を出す。
「俺もそれ、聞きたいっす。あの、また言葉は悪くなるかもですけど、ちゃんと恋愛かなって事です!
なんか、親心とか、親友とか、その気持ちが一時の膨張をしちゃってるだけとかだったら、ダメだって事っす!!」
「……要は、貴仁、お前の覚悟の程だよ。知りたいのはな。」
強い口調で、それでもどこか龍希を心配するかのように綴られた樹の言葉を、そして、真奈の言葉も全てを受け、純也がそう締めくくった。
強い3人の瞳が貴仁を見る。
貴仁もそれを同じぐらいの強さで見つめ返す。
そして、ふ、と少しだけ笑うと
あぁ、全くその通りだな。とその口を開いた。
「まずな、確かに龍希には同情や情けって言う感情を抱かせやすい過去も性格も存在するよ。
あいつはな、父親に虐待されて、その父親と別居後、今度は母親が奴を施設へ入れた。
それでも泣きもしないで生きてきたような奴だ、
俺は色々事情を知っていて、放っておけなくて、それで昔、施設から戻ったばかりの中学生のあいつを、暇なら家に遊びに来いよと誘った。香奈子も気に止めていたしな、あいつの逃げ場を作れたらと、思ったんだ。
……結果、高校に上がった頃にはもう、あいつは俺を恋愛対象にしたんだけどな。」
ぐいっと酒を口へ流し込むと、ガタンと、少しばかり乱雑にそれをテーブルへと置いた。そして、続けた。
「あいつは今でも父親の存在に怯えてる。
両親の事は大好きだと言うくせに、父親が戻る日が解ればその日まで毎日のように夢にうなされるし、酷い時には殆ど眠れなくなるんだよ。
悪夢で飛び起きて俺にしがみついて泣きじゃくった日も有った。……子供なんだ。父や母の夢を見た時だけ、あいつは本当に小学生ぐらいの子供に戻る。
そんなあいつを、兄や父親みたいな心境で、同情していて、その延長線上の想いなのは確かだよ。今でも俺のあいつへの気持ちに、兄みたいな感情が有るのは、それは認めるよ。」
耳にした全てが3人にはそれなりにショックな話ではあった。
虐待だの施設だの子供帰りだの……
先程まで目の前で嬉しそうに笑っていた男が、それなのだと。
まるで幸福の色かと思うようなピンクに頬を染め
た笑顔を見たからこそ、ぐっと心臓が掴まれる思いだった
そして、なおのこと、貴仁の思いの強さが試されるのではと言葉を待った。
「最初は、自分もこれは恋愛のそれじゃあないんじゃないか?って悩んだ。今だって、これが何て名前の感情なのか解らない。
だってな、兄や親友のように居てやりたい時も有る。家族でありたいし、友人でありたい。それでもやっぱり触れたいと思うし、キスだってしたい。愛したい。最愛の恋人で在りたい。
……ようするにさ、俺の中の全ての情があいつの為に有ればいいって、思っているよ。」
言葉にすると何だかひどく重いけどな、と笑うと貴仁は今日と言う日の目的を口にした。
「カミングアウトも、本当はあいつは嫌がっていたんだ。かなり言い争ったよ…」
ほんの数週間前に、龍希と何度も意見を言い合った事を思い出して、それでも迎えられた今日に、ふふっと貴仁は小さく笑んだ
「…何を言われても、押しきってまでお前達に紹介したのはさ、残したいからだ。
俺のあいつへの感情を、想いを、最愛のパートナーであった証を、俺が死んだその先も、あいつが生きてるうちはずっと、残したいからなんだ。……俺が頑張って長生きしたって、多分俺の方が先に逝くからな……」
夫婦として国に認められるなら正式に残せるものも出てくるが、それが出来ないなら、自力で、自分達が愛し合っていた証拠を残したい。
それを、カミングアウトと言うものに託せるのでは?と思った。
「……まじか。」
純也が目を丸くして全てを聞き終えた。
真奈はもう、今にも泣きそうになっていた。
「お前、本当に貴仁かよ、俺はこんなに執着心を出しまくってる貴仁なんて男、知らないぞ……」
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