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恋の資格
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近くとも遠い距離。
ついて離れない香奈子という大きな存在。
何度も、何度も、想いを伝えてしまおう。
と、口を開きはしたが、
勿論言い出せた事は1度もなかった。
口を開いた所で、その声に振り返る貴仁を見ては、
この時間を失いたくない。
嫌われたくない。
そう思っては、胸が締め付けられるように痛んだ。
挙げ句、最近になって貴仁が、
たまに女性と会っている事も知っていた。
彼は、仕事の関係だと言っていたし、その通りなのだろうけれど、
そんなものは何時だってそれ以上になる。
何しろ彼はゲイでも何でもない。
と、なればそれは、普通の男と女の話だ。
それが恋に変わるのなど、どんなタイミングでなるかわからない。
「会いに行かないでほしい。」
そんな言葉を飲み込んで、笑顔のいってらっしゃいを伝える日も幾度と有った。
行かないで。
そんな事を言う権利は勿論、
好きだと伝える権利すら自分には無いと
龍希は思っていたのたのだから仕方ない。
人が、人を愛するのに何の権利が必要だろうか?
そんなものが必要なのか?
そんな事は絶対にない。
あってはいけない。
誰もが、誰かを愛する権利が有るはずだ。
それでも、龍希はいつも、その権利にぶつかり悩んだ。
少しの余談になるが、
貴仁の家には猫がいた。
縞模様のオスだ。名を「もんた」と呼んだ。
龍希はいつも、
その権利という壁にぶつかった時、悩んだ時、辛かった時、もんたの頭をごしごしと撫でつけた。
もんたは貴仁に懐いているのはあまり見た事がなかったが、
龍希にはとても懐いていて、
良い相談相手となっていた。
今の現状の事、役割の事、女性と会いに行くのを笑顔で見送ったあとに……。
決まって龍希はもんたの頭をごしごしと撫でつける。
「なぁーーお」
と、もんたの声がする。
それは龍希には、自分のこぼした問いに呼応しているようで心が安らいだ。
「貴仁さんて、女の人にモテるかな」
「…モテるよね」
「会いに行かないでって言っていいのかな」
「…ダメ、だよね。」
そう独り言をこぼしながら、また、もんたの頭をごしごしと撫でつけた。
すると、またもんたが、「なぁーーお」と応える。
「元気だして」と、言うように。
勿論それは、呼応などではなく、
ただ、もんたはその頭をごしごしと撫でつけると、
決まって「なぁーーお」と声をあげると、龍希は知っているだけだった。
それでも、その声は生まれた傷を癒やして
無くした笑みを口元に蘇らせた。
また、いってらっしゃいと言える為の笑顔を。
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