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第2章「離別」
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そんな葛藤の3ヶ月を
それでも、大好きな人の側に居られる喜びを糧に過ごして来て。
今、ここに1時間半の格闘の末、
本日のディナー 肉じゃが が完成の姿を見せていた。
「うん、旨い!……と、思う!」
そんな独り言をその肉じゃがに呟くと、
手早く台所を片付け、その場を出る。
向かうは、平屋の一軒家であるこの家の奥に存在する和室だ。
2度、3度とノックをして「貴仁さん?」と名を呼ぶ。
そう、ここは貴仁に部屋だ。
玄関を入り、すぐ左へ廊下を進み、
客間と、台所を含む居間に添って存在する縁側を通り、突き当たればこの部屋だ。
仕事場兼、寝室なので、
今、仕事をしていようと、寝ていようと、ここに居る事に違いはなかった。
何度かのノックにも反応が無いのをみると、寝ているのだろう。
龍希は、そっとふすまを開けて中へ入った。
思った通り。貴仁は寝ていた。
おそらく、少しだけ横になろうとした程度なのだろう。
布団もひくこともなく、
畳にごろりと横たわったまま、完全に熟睡している。
寝息が聞こえる。
あまりによく寝ている姿に、龍希は、
ふふっと笑うと、
その横に座り、しばし見つめてしまった。
そして決まって龍希は、
「あぁ、嘘みたいだ。」
と考える。
8年間も、もう会う事すら出来ないと思っていた
こんなにも愛おしい相手が、すぐここで寝息をたてている。
この距離に居れるだけ。
寝顔を見られる機会が有るだけ。
それだけで幸せだった。
それだけで、構わなかったのだ。
……そう、この日までは。
───触れたい。
その手に。今目の前に置かれているその手に。
───触れたい。
すぐにでも触れられるこの距離。
どうしても、どうしても触れたい。
この日、何故か強く強くそう思ってしまった。
「いけない事だ」
龍希の頭の中で何者かが言う。
「いやだ。触れたい。」
その誰かの制止を振り切るほどに強く思った。
何故振れてはならないのか。
何故想ってはならないのか。
好きなのに。こんなに側に居るのに。
いいじゃないか。好きなのだから──!!
頭の中で何かがはじけたようだった。
気がつけば震えていた。
小さく息を吸うと、龍希は震える己の手を
ゆっくり、貴仁のそれに近づける。
瞬間。
龍希の震える手は、
貴仁のその指を、そっと小さく握った。
心の臓が強く鳴った気がした
そして飛び上がるようだった。
震えるその手に、指に、暖かい体温が、肌の感触が、
じわりじわりと伝わってくる。
それは、脳に届き
脳はそれを喜びという感情に変化させた
鼓動がうるさくなるのを感じた。
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