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気持ち悪い手、1
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ほんの数秒。
この喜びを噛み締めて
龍希は手を離そうとした。
その時だった。
「……」
貴仁の唇が動く。
「───?」
不思議に思い、つい耳をすます。
その耳に飛び込んだ言葉は
それは、きっと、今、貴仁が夢の中で手を繋いだであろう人物の名前。
「…香奈子……。」
そして、今度は逆に貴仁が離れようとしていた龍希の手を握り返してきた。
先程と、変わらないはずの温もりが、肌の感触が、
ひどく痛くて冷たい刺激となって手を走る。
ただ、ほんの一時の喜びの為に
震える手を動かして、波打つ鼓動を飼い慣らして
ありったけの勇気で触れた。
その手は
自分ではなく、彼女のそれに変わった
こんなにも簡単に貴仁が握り返している
それは同時に、同じくらい簡単に当たり前のように彼女は、この人の手を握り
その胸へ抱かれ
キスだって、当然のようにしたのだろう。
という現実に変わった。
自分には、願う事ですら罪のような事でも
彼女なら許されたのだ。
いや、違う。
女性ならば可能なのだ。今でも。
龍希は、そこまで考えて
3ヶ月間、気がつかないフリをしていたであろう絶望を初めて感じていた。
同時にこのままで居る限界を感じていた。
─────あぁ、もう。無理だ
龍希の脳裏をその言葉が過ぎるよりも早かっただろうか。
突然目を覚ました貴仁によって、
繋がれたては強く払いのけられていた。
その行動に心を痛める間もない速さで龍希の耳に飛び込んだ言葉は凶器だった。
鋭利な刃物を突き立てられて、そのまま引き抜かれるような感覚。
目を覚ました貴仁の声で小さくともハッキリ。
「…あ、悪い、勘違いした……ハハ。手とか……気持ち悪いな」
笑って。冗談のように。
それでも、瞳は真っ直ぐと、何かを問いかけるように。
…………何を?そう訝しく思った瞬間、
龍希は突然、8年前の高校生の自分のした告白を思い出した。
ひょっとしたら、この人は、あの意味を………
それは言葉になり口をついて出た。
「…貴仁さん。……ひょっとして、8年前の、オレが庭で話した事…理解、してたんですか?」
「……!!」
貴仁の顔が強張る。
既にそれが答えだとも思えたが、
貴仁が出した言葉は曖昧なものだった。
「………いや、違う、しっかりとは解らなくて……その後考えて………いや、でも確信は無くて……」
視線が反れる。
どちらにしても、これは、少しは解っていたと言う答えだ。
龍希は、ふふっと笑ってしまった。
先の言葉で心が痛むのか、別の事で痛むのか、もう解らなくなっていた。
ただ1つ。
思った以上に気持ちは冷静であった。
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