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気持ち悪い手、2
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「……ふはっ。……可笑しいや。もしもさ、あれを理解していて、こうしてここに通わせてくれて、ご飯も、珈琲もさ。やらせてくれてたのならさ……優しいって残酷ですね。」
龍希のその言葉に貴仁は驚いたようにその目を見開いた。そして慌てて言葉を発した。
「……違うっ!!……そりゃあ、どういう事だろうって少しは考えたけど!まさか、そんな意味の好きだなんて、……思わなかっ…────…っ」
思わなかった…と、言うつもりだったのだろう。
けれど、貴仁はハッキリと最後まで言えずに言葉を飲み込んだ。
本当は自分は解っていたのかもしれない。
そんな思いが彼の頭をよぎったからだ。
龍希がゲイで、自分の事を、女性を愛するように愛していると伝えたのでは?と。
本当はそれに気がついていたのかもしれない。
気付いていて、今の龍希の立場を、香奈子の代役であると理解していて、扱っていたのかもしれない。
「でも、オレが望んでやってたのだし、オレの方が悪い。」
貴仁が、己の考えに気を迷わせていたところへ龍希の言葉が届いた。
「だって、オレはあわよくば香奈子さんの代わりになってやろうと思ったのは事実だもの。
……役割だけでなく、気持ちの上でも………。」
龍希の声はとても落ち着いていて、少しも感情的ではなく、どちらかと言うならば
無感情なほどだった。
昔から龍希は何かあると決まって冷静であった。
いや、冷静に見せているだけで、感情を消す努力をしているだけで、
泣いているよりも強く泣いているのだが。
傷付いて泣いているのは「オレ」という誰かだ。と、思うオレを作る……何の事だかさっぱりかもしれないが、それが彼の持論だった。
きっと、己を第三者のように傍観する。
それが近いだろうか?
そうする事が幼い頃から彼が自身を守る手段だった。
なので、龍希は幼い頃から、泣かない良い子ねとよく言われていた。
父からの虐待も、母を悲しませたくなくて、泣くことはなかった。
「8年前は、オレも言葉を濁らせてしまったから、ダメだったんですよね。」
独り言のように呟くと、
変わらずごく冷静な風の龍希は、真っ直ぐと貴仁を見て
その口元に微笑みすら携えて
誰もが聞き取れるしっかりとした口調で言った。
「……ずっと、あなたが大好きでした。」
宙を舞って出た言葉が消えるより早く、更に付け足された言葉が後を追った。
───あなたに恋をしています。
別の意味と捉えようの無い、明確なそれ。
貴仁の顔が固まり、少し強ばらせていた肩から力が抜けるのが分かった。
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