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雨の日
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小雨の降る中、
彼は傘を手にしていた。
しかし、彼が手にした傘は、彼自身が使う事は無く
それは他でもない
1人の女性へと向けられていた。
2人は何か会話をしながら出てきた所、と、言った感じだった。
あの家から2人一緒に出てきたという事だ。
まだ、昼にも満たないこの時間に
もうすでに、
家から出てくるタイミングだという事から、いったいどんな事が考えられるのか……と、
龍希は数秒の間に幾つも思い描いた。
そんなシーンはいくらだって有る筈だし、ただ仕事の話をしただけだろうと言う想像など一番しやすいはずなのに、
嫌な事にしかいき着かない。
その間にも2人の会話は続き
貴仁が、女性へと傘を渡した。
彼女は小さく会釈をすると、
傘を持たない方の手を真っ直ぐと、
貴仁へ差し出した。
僅かな間は有ったものの、
貴仁の手は、彼女のそれを受け入れた。
「………。」
龍希は、全身の力が抜けるのを感じた。
そして、
迷うこと無く2人から視線を逸らした。
もう、一秒だってそれを見ていられる自信は無かったからだ。
彼女が、いとも簡単に受け入れられ、さらに、
触れる事が出来ているあの手。
それは、1週間前に
「気持ち悪いな…」と、軽く笑い
龍希の手を払いのけたそれだからである。
龍希は、
少し強くなりだした雨の中、門を入ると
震え出している自分の手を覗き込んだ。
「……オレも、また触れたいな。」
それは小さな小さな願望
「……いいな、オレのじゃ駄目なのかな」
何が違うのか?と、素朴な疑問。
グッ、パ、と自分の手を握っては開いてみる。
彼女の手も己のそれも同じなのに。
ぐっと強く唇を噛むと
震えた手をブンブンと、身体の横で振った。
手をつなぐ事に成功した男女が、次のステップへ進む速さなんて、よく知っている。
自分の頭の中で、そんな説明文をタイピングするように浮き彫りにさせると、
フフっと、小さく笑った。
「……いい最後だ。」
口から声となって零れ落ちたその言葉は、
龍希が自分自身へ伝えた台詞のようだった。
門から玄関までのほんの1歩、2歩のアプローチしかない小さな空間から、
ふと、空を仰ぐようにして隣の方へ視線をやると、
その先に僅かに、あの木蓮の木が姿を見せていた。
小さかった雨は
既に、本降りへと変わろうとしていた。
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