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「……て、店長ぉぉ……」
電話を切った龍希の目の前には、そんな彼を見守るしかなかった麻理子が、半泣きのようになって呻いていた。
「…何だよ、その顔。」
あまりに情けない彼女の顔に、ふはっ!と吹き出すと、
手にしていたボールペンの尻の部分で、
自分の顔をペチペチと叩く。
「オレのミスで、お前じゃないだろ?」
「で、でも、そもそもは、私が間に合わなかったのと、入荷無かった昨日に、早く伝えてたら……」
どうやら麻理子も、今の電話の相手が誰で、どのような展開になっていたのかの想像がついているようだった。
申し訳ない、という顔のまま、
思い出したようにこう付け足した。
「…それに、あの日、なんか、店長すごく調子悪そうだったのに、全部任せてしまって……」
その付け足された言葉に、ピタリと龍希の動きが止まる。
そうだ。
気がついてはいたが、そのミスをした日付は
紛れもなく、あの日。
本降りになる雨の中、貴仁と、知らない女性から目を背けたあの日。
貴仁との再会により、夢に見てしまった己の気持ちが伝わる可能性全てを失ったあの日だったのだ。
しかも、上手いこと変わらぬ自分を装ったつもりでいたが、麻理子に見抜かれていた、そしてこんなミスをした。
色々と頭を過ぎる感情は有ったが、すぐに全てぬぐい去り
「………や、たとえ何がどうだって、オレは店長なんだから、これが、オレの仕事。」
と、笑顔で麻理子に答えると、
このまますぐに出るから、今日は残りのスタッフで、閉店まで頼む。
と、別スタッフにも説明をすると、そのまま足早に店を出たのだった。
そして、その行き帰りの電車の中、色々と考えあぐねた末に、
自分の思っている以上に参っている自分に気がつき、
これは仕方ない。と、ある人物へ電話をかけた。
龍希にとっては、本当に困った時の最後の砦。
完全に迷子になった時に最終的に頼る所。
家族のような、絶対の見方の所。
仕事を終え、東京駅に着いた時分、
繋がった電話先には明らかに男の声だが、
口調は女性で、
「…なぁにぃ?龍ちゃん!」
その声に安堵の溜め息をつくと、
一言。
「けんちゃん、今日泊まっていい?」
告げた龍希の口元に小さく笑顔が生まれた。
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