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セクシャルマイノリティ
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自分はそんなにも、固定概念に捕らわれる人間で
自分はそんなにも、懐の狭い、弱い人間だったかと。
それを知るのが怖いのだ。
貴仁は、会ったばかりの人間へ、こんな自分の素直な感情を伝えられそうに、なっている自分に驚いた。
「……そもそも、翻訳家なんて言っておいて、セクシャルマイノリティと言われる人の事を、知りもしないで、理解しているなんて感じていた自分に驚きと、恥ずかしさで、呆れますよ……」
そう、知らなかった。
それは貴仁だけでなく、この国の殆どの人がそうだろう。
レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス。
LGBT、LGBTI……
これらの頭字語の存在と、内容、意味。
そして、何より固定概念や、思い込みという恐怖。
例えばこんな単語や会話を良く耳にしたり、口にしたりはしないだろうか?
「ゲイなんだ?じゃあオカマなの?」
とか
「え、せっかく格好いいのに残念だね」
「ホモって、偶然同性を好きになっちゃった人の事言うんだよね?」
「ホモなのに男喋りなんだ」
……こうした何気ない言葉も固定概念も
少しだけ複雑に感じてしまう単語や、
ちょっと違ってしまっている解釈。
それらが言葉として、情報として、簡単に拡散されてしまう時代で、
知っているつもりで、「差別はしていない。気にしなくていいのに。」と、言えてしまうのは、
少しだけ、残念だなと、感じてしまう。
無論セクシャルティな話なので、何が正しいなどと言うのは、無いに等しいのだし、
先に話した、固定概念の例えの単語や会話についての議論をここでするつもりは無く、
ただ、
ここで言いたいのは、
この時、貴仁が感じてしまっていたのは、
知らない事を、知ったつもりで、結論を出してしまう思い込みのような感情だった。と言う事だ。
それを感じてしまう自分を呆れると称した貴仁に、
けんちゃんは、小さく笑い返すと、
そうかしら……と、告げた。
そして、こう付け足したのだ。
「知らないって当然で、…寧ろ自分だって詳しいって言う訳じゃないし……それを知らなかったって事を、知れたって、良い事な気がしますけど?…少なくとも、自分は嬉しいですけどね。」
それから……
「…龍希君は、応えて貰えなくても、構わないって感じていると、思いますよ。」
そう告げながら、けんちゃんは、
あぁ、この人はものすごく真面目で、真っ直ぐで、沢山の幸福を知っているんだなぁ。と、感じていた。
とても真っ直ぐな瞳からは、彼の真面目すぎる性格が伺えた。
その後も貴仁は、再び龍希を苦しめるのではと、気に病んでいたが、
けんちゃんは、龍希はきっと、それでも構わないと思っていると、それを説き伏せ、
ともあれ、あとは龍希君に任せますから。と、締めくくりその場を後にした。
貴仁の家を出ると、午後の日差しが夏の暑さを増していた。
────ランチは何にしようかしら。
けんちゃんは、食べそびれていた昼食に思いを馳せながらも、
龍希に応えてあげられないどころか、ゲイである事すら、まだ理解出来ずにいると語った貴仁の瞳を思い出していた。
あれは、真面目で、これと決めたら突き通すタイプだわ。
と、苦笑いをする。
───……と、言う事は、いよいよ本当に龍ちゃんの想いが報われるなんて夢は、やっぱり夢かもね…
あれだけ知らなかった事が恥ずかしいと、セクマイの存在を知る努力をして、尚、応えてあげられないと、ハッキリ口にしたのだから、
これは相当だと感じていた。
けれど、それでも龍希は、戻るべきだと言う考えは変わらなかった。
貴仁に二度と会えないと決めて生きた日々に比べたなら、どれだけ報われる事が無かろうと、
泣こうと、苦しもうと、
まだ、友人としてでも彼に会う事が許されている状態の方が幸せだと、けんちゃんは知っていた。
あんな抜け殻みたいな生き方、してはいけない。
───泣かない人生より、泣く人生の方が素敵よ。
さっきまで居た家に満ちていた珈琲の香りを思い起こしながら、
───何だか、珈琲が飲みたくなってきちゃった。
と、小さく溜め息をつく。
───とびきり深煎りの…!
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