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第4章、「再び。再会」
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テーブルの上には、宅配で頼んだ弁当がまだかろうじてその暖かさを保っていた。
暖かい物が、その美味しさを失わぬうちに届くのだから便利な国だ。
昨日は知人と外で食べたが、その前は出前の蕎麦だった。さらに先週は確か、中華飯。
そしてとどめが宅配弁当とは……。
「……なんか、買い物に行けない、じぃさんになった気分だ…。」
己の仕事以外の生活力の適当さに我ながら呆れていたのは…言わずもがな、貴仁である。
これでも先週までずっと自炊を頑張っていたが、一度仕事への時間を多く割きだした途端、
もうそんな事が面倒になり、それからこんな生活と鳴ってしまっていた。
食べる事が面倒で、1日1食な日も多かった。
そんな弁当のメインであろう、鯖の味噌煮を口にしながら貴仁は昼間に来た、けんちゃんの事を思い出していた。
「…いい人って、感じだった。」
物腰も柔らかく、話しやすくて、身なりも……
そこまで考えて、ふと当然の事に気がついた。
「…あ、て、事はあの人も龍希と同じで、セクシャルマイノリティって事なのかな……」
そこまで考えると、彼と話した内容が思い起こされた。
────龍希が、戻って来るかもしれない。
そう考えてみてすぐに、貴仁は自分に驚かされた。
それは、今少しではあるが、自分が「喜び」に近い感情を持っていたからに他ならない。
考えてもみたならば、貴仁はあれからの日々、
何かにつけて気持ちが他の何かへ持って行かれていると、認めざるを得ない状況になっていた。
仕事をしていても。
縁側で、猫のもんたと遊んでいても。
珈琲を飲んでいても。
何より、香奈子の遺影に向かおうとしている時でさえも。
その全てのシーンで気がつけば
龍希はどうしているか、元気でいるか…それを考えそうになっていたのだ。
無論、気持ちがどこか他の何かへ持って行かれている事には気付いていたが、
その先が龍希である。と、言う事は気付いてはいなかった。いや、頭のどこかで解っていたが、
認めないでいたのかもしれない。
けれど、今日、
それをいよいよ認めるしかない程にまで、ハッキリと己の気持ちの先に龍希を見たのだ。
しかも、それを喜ぼうとしていたのだ。
───俺は、喜んだのか?
驚きは一瞬。
あとは戸惑いと困惑。そして
懸命に行う否定。
幼なじみのような存在として、弟のような存在として、
友人として気にしているだけだ。
そんな当たり前なはずの事を必死で、そうなんだぞ、と言い聞かせている自分が気持ち悪かった。
同時に今、気持ち悪いと言う単語を思い描いた自分に嫌気がさした。
頭がグチャグチャで疲労さえ感じる。
───そもそも。俺を好きだなんて…
同性な上に歳も離れている。
気の利く龍希は、色々な人に好かれるのではないだろうか?
きっとモテると思う。
それだったなら、彼の気持ちに応えてやれなくとも、
それはたいした罪では無いのではないだろうか?
などとなんとも都合の良い思考に気を軽くさせた途端に、思えば龍希がまだ高校生だったあの日の
酷く曖昧な言葉での告白。
あの時から自分は彼の気持ちに少しであれ気付いていたのだと言う事実に、再び気を重くするのだった。
あの時から自分は何度となく同じ気持ちに戸惑い、
それを否定してきたのでは、ないだろうか?
勿論、香奈子を愛していたから婚約をして。
愛していたからこの家で共に暮らした。
それも確かだが、
ずっと、龍希の気持ちに気付いていないフリをしていたのもまた、確かな事だったのではないだろうか?
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