アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
驚きと、戸惑い、悩み。
-
もしそうなら……
───俺は自分の感情の何か何処かに、嘘をついて来たという事になるのか?
あの時から、ずっと、ずっと。
貴仁はだんだんと、何を考えているのか、何を考えたいのか、その全てがゴチャゴチャで解らなくなってきている思考に嫌気がさし、
1つ大きく溜め息をつくと
今日、試しに少しだけ、龍希へと持って行かれているであろうこの気持ちをそのままにしてみる事にした。
その気持ちはやはり龍希を思い描きだした。
最初に見えたのは、
ついこの間までここに有った龍希の笑顔。
慣れない手付きの料理と、楽しんで入れてくれた珈琲。
2度目になった告白。
震える声と、香奈子へのゆず茶。
そして、さらにその先に見えたのは、
高校生の龍希。
市販のブリーチ剤でやったのか、少しまばらで綺麗とは言えない金髪に長めの襟足を遊ばせた風貌が、
何か無理したやんちゃさを語っていたあの頃。
夕陽に染まる木蓮が綺麗な庭で聞いた、曖昧な告白。
大好きです。と、伝えてきた、おそらくは大きな「無理」を閉じ込めた笑顔。
そして、金髪になる前の…中学生の龍希。
元気に、明るく。
けれどいつも、我慢と寂しさという感情の中で生きていたであろう、何か無理をしているつまらなそうな瞳。
そしてさらに先……
小学生の龍希を貴仁が見て、覚えているのは1度だけ。
施設から、一時帰宅していたであろう日。
あの頃はまだ貴仁の叔父の居た、この家の庭から少し見下ろせる場所にある龍希の家を偶然見てしまった時。
玄関先で、
側に置かれたバケツやシャベルといった玩具に目も向けず
じっと膝を抱えて座っている龍希の姿。
貴仁が少し驚いて、覚えているのは、
その後、母親の気配を感じて、慌てて玩具のシャベルでその場の土を掘り起こし、
【今まで楽しく遊んでいた証拠】を作った龍希の仕草だった。
これで全て。
自分の知る龍希全て。
長い間を知っている。同時に一番知りたい時間を知らない自分。
そして、ますます自分の今の感情が何なのかが解らなくなる。
貴仁は、そこで意識を現実へ戻すと、
再び、半月前、自分の部屋で2度目の告白をし、声を震わせ、
そしてサヨナラの言葉の時はやはり笑顔だった。その龍希を思い返すのだった。
───龍希が、戻って来る。
そう認識し直して、
軽く息を吸い込むと
戻って来て欲しい。
とそれを素直に認めた。
これが、どんな感情かなんて、今はどうでもいい。
とりあえず、戻って来て欲しいのだ。
また、彼に会いたいのだ。
と、確信したのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 90