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おかえり。
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少しのギクシャクは覚悟していたが、
けんちゃんが他愛のない話で和ませたため、
コロコロと笑って会話が進んだ。
数日と言ってたくせに半月近く自分の部屋に転がり込んでいたのだと言う、龍希への愚痴だったり、
全く関係のない、先日見た映画の話だったり。
気を使う暇もなく話は弾んだため、
龍希も貴仁も、既に何事もなかったかのように、
もとの感覚に戻っていた。
そして、30分も喋り続けた頃、けんちゃんが
もう戻らないと…と、龍希をその場に残すと、
貴仁の家を後にした。
「楽しい人だな、けんさんは。」
貴仁は、居なくなってからも話題を残してくれる彼の存在感に感謝すらしながら、微笑んだ。
「……うん、あー、でも本当にさ、お節介で。口うるさいんだ。」
この間なんてさ……と、例え話をしながら、
龍希もまた去ってなお、話題となってくれる彼に感謝した。
けれども、そんな会話も終わりはある。
そんな途切れた会話を嫌うかのように、貴仁は、
「…あー。龍希は…今日、夕飯は?」
と、本題かのように、切り出した。
…否、紛れもなく本題だったのかもしれない。
龍希もまた、その言葉を待っていたかの用に、
ドキリと身構えはしたが、なるべく平静を装うと、
「…あ。ここで食べていい?…オレ、何か作ります。」
と、理想通りの言葉を返す事に成功した。
貴仁は、あたかもようやく普通の食事にありつける!と言うかのような表情で、
助かるよ!頼むよ!……と、笑って見せた。
「…あはは、貴仁さん、ちゃんとご飯食べてました?料理苦手なオレにこんな事言われてたら、けんちゃんが笑うよ?」
などと呆れ半分に言いながら龍希は台所へ向かおうと、立ち上がる。
そしてふと、香奈子の遺影に目をやると、
そこに、供える花も、ゆず茶すらも無いのを見つけて、
あー!と声を出した。
「貴仁さん!花どころか、ゆず茶も何も無いじゃないですか!香奈子さん、可哀想!」
発された言葉は、文句を言うかのようなそれだったが、
それとは裏腹に、その声色は少しばかり弾んでいた。
自分がここに必要とされて居る感覚を得たからだ。
自分が居なければ、ゆず茶が供えられる事が無い
と、言うのは、ここに居ていいのだと言う、
充分な理由と感じられた。
そして、そんな龍希を見て少しだけ微笑むと、
貴仁は、やや間の抜けた声で言う。
「…あー、何だっけ?ゆず茶?俺はよく解らんからな、入れてやってくれよ。助かるよ。」
その後も、
ゆず茶は香奈子さんの好きな物ですからね!
と、貴仁へ文句を告げると、
龍希は、至極嬉しそうに
夕飯の材料を見に台所へと姿を消した。
それを見送る貴仁は、小さく笑い
写真の中の香奈子へと、目をやった。
「ありがとうな。」と、言うかのように。
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