アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
日常
-
「……ふぅん、でも、もっとなんか、英会話らしいテキストの方が手っ取り早くないですか?仕事の内容で考えても…」
麻理子の指摘があまりに的を得ていたため、
テキストを鞄へしまっていた手が思わず止まる。
まさにその通りだ。
仕事だけが目的であるならば、英会話のCDを聞いたり、
英会話教室にでも通えば速いと言う話である。
しかし、目的の多くが「香奈子に並ぶ事」
…寧ろこの際、打倒香奈子とでも言おうか……
である以上
読み書き、文法の構築、単語の応用こそが必要なのだから致し方ない。
しかし、今、ここでそれを言う訳には勿論いかず
思わず答えを考えてしまった。
答えが即答出来ていない時点でこれがおかしな「間」で有ることは明確だった。
「……あ、あれか、あれですね?」
麻理子が何かを理解したと言わんばかりの顔で口を開くと、人差し指を立てた。
どうやら、選択肢の1つ目を意味しているのは、続いた言葉で解った。
「……1番目!彼女が英語関係の仕事をしている。」
早速選択肢の最初にしてほぼ暴かれた事実に凍りつく龍希をお構いなしに、麻理子は続けて、2本の指を立てる
「……2番目!これだったらビックリですが、彼女が外国人!!わー!ビックリですね!これ!!」
自分で言った言葉に自分でビックリしてみせている麻理子は、いよいよ楽しんでいるだけである事が一目で解る表情であった。
そして、3本目の指を立て、言った。
「……最後!彼女の好みが英語の出来る男である!」
スタートから内容が色恋沙汰だった上、かなり的を得ていた事で、返す言葉に迷っていた龍希だが、
3つ目の内容にも絶句せざるをえなかった。
何か言わなければと思うものの言葉を出す事は出来ず、
それはイコールで結び「その通りです。」と言う返答であるだろう。
わかってはいても、今の龍希の脳裏を過ぎるのは、
────女の勘は怖いものだ。
と言う一言に尽きたのだ。
「……な、何で女ってのは、すぐにそうやって恋愛関係に話を持っていくんだよ……」
追い詰められた龍希が、考えぬいて出した、一番さり気なく話を反らせそうな言葉が、これだった。
「……あ、図星なんですね?」
「……え?」
龍希は、ここで初めて言葉などとは関係なく、
もうすでに自分の今の表情こそが明白な答えになっている事に気がついたのだった。
そして、そんな時に人は「うつむく」と、言うさらに解りやすい行動しかとれなくなる事にも同時に気付かされたのだった。
このままここに居ては危険だ。
立て続けに自分がとった、ひどく解りやすい受け答えと、行動の数々に、いよいよそれを感じると、
「……あれだ!2人しか店に居ないんじゃあ心配だし、オレは戻らないと!」
と、言って席を立つ。と、言う1番格好の悪い交わし方でその場を逃れる羽目になった龍希は、
休憩室を出た所で頭を抱えた。
───彼女……か。てか、女じゃねーし
……恋愛話の時に相手を彼氏彼女でなしに、恋人って表現しましょう!て法律でも有ればいいのに……などと言う提案を脳内に繰り出しながら抱えた頭を持ち上げた。
───てか、まぁ、恋人どころか、付き合ってねーし……将来的にも付き合えるわけ、ねぇんだけどさ。
龍希は、英語の本を入れた鞄がその手にヤケに重く感じるのを、深く吐き出したため息で紛らわすのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
30 / 90