アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
玄関の靴。
-
貴仁は自分がいつまでもウジウジと考えている事の意味はもう解っていた。
怖いのだ。
この想いは恋ではない。と意識すると言うことは、
逆を取れば、
この男の事を恋の対象にしていると言う事だ。
そんな事は解っていた。
解っていて、「これは恋ではない」と言う名前のラベルを貼り付けたがっているのだ。
別世界ではないとは理解しつつも、
どうしても知らない事の多い龍希の世界、
……つまりは、LGBTという頭字語の意味する世界である。
それを目の前に出された時に、自分は何の疎外感もなく、孤立感もなく、お邪魔しまーす!と、靴を脱ぎ揃え、笑顔でそこへ入る事が出来る人間だろうか?
帰宅してから、まだ靴さえ脱げずに、そこへうなだれて座る貴仁は、まさにその心境である。
以前、貴仁は少しだけ、同性愛者が主役の小説を読んだ。
龍希の事もあり、自分の気持ちの整理の為にも……と手にしたのは本当だが、
申し訳ない、「怖いもの見たさ」の感覚があの時は勝っていた事は告白させていただこう。
それほど、ストレートである貴仁には、足を踏み入れるのにすら準備と自問自答が何百回と必要な事なのだ。
実際のセクマイである方がこれを読まれ気を悪くされたなら申し訳ない。
けれど、それだけ時間を要して考えなければならない気持ちが、
ストレート側には有るのだと思っていただこう。
さて、その小説に出てきた相手役の男は貴仁に似ていた
その男は、小説の中で、主人公でもあるゲイの青年に想いを告げられる。
主人公の青年は、最初から断られる前提で告白をしたと言う設定で、ハキハキと好きですと告げ、そのままさようならを言うと、すぐにその場を去る。
貴仁が苦虫を噛み締めたのはそこからだ。
自分に立場が似ていたストレートであるその男は、
「まてよ」と言うと、
去ろうとするゲイの青年の腕を掴み、引き寄せ、告げるのだ。「ここに居て欲しい」
立場こそそっくり同じだが、
何だ、数倍格好いいではないか……と苛ついたのを覚えている。
それに比べ自分はどうだ?何だかどうにも格好が悪いではないか。
───そもそも男だ。そこに疑問は持たないのか?
そんなもっともらしい理論を己に言い聞かせると、
またすぐに
「男とか女とか、理由とか意味とか関係ない。」
などという小説の台詞が再び思い起こされ、結局格好の悪い自分に頭を痛めた。
───恋だの愛だのってのはさ……感情論では有るけどもさ、先を読めないと、まずどうしていいかが分からないじゃあないか。
もうすでに「ただいま」と言う事も忘れた貴仁は、居るはずの龍希が無反応であるのをいい事に、
玄関に腰掛けたまま、しばし考えに耽った。
───ようするには、さ。……結婚する、籍を入れる、苗字を共にする、扶養する家族を持つ……未来のビジョンが一般論として決められてるか否かってさ、大きいよ。やっぱり。
父親になりたい。だとか、それが夢なんだ。なんて事では全くなく、
ただただ、「こうなるものだ。」「ここへ向かっているのだ。」と、言った人生の先の【区切り】と、言うヤツである。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 90