アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
確信から、喜び。
-
家族。
家族と言うモノがどれほど晴らしいか。
羨んで羨んで、これまでの自分には無くて、これからの自分にも作り出せない、大好きなモノ。
─── この人のそれを、消してしまってはいけない。この人さえ幸せなら、それでオレは幸せなのに。
そんな事は解っている筈なのに
それでも離せない手。
「……龍希。……何で?離さなくていいんだよ?」
このタイミングで、そう発せられた貴仁のその言葉は、龍希の感じていた手の温もりを、さらに優しい温度へと変えた。
視界が滲んできていた。慌ててそれを無くすために視線を逸らした。
そうだ、きっとこれは、すぐ覚める夢だ。
ならば、いっそ今それに甘んずればいいではないか?
そう理解をすると、龍希は口を開いた。
「……好きになっても、いいって事ですか?」
視界を滲ませていたものは何とか消せていた。
そしてその目で、真っ直ぐ貴仁を見つめた。
まだ何か多少の戸惑いは感じられる貴仁だったが、彼も決して視線は剃らさなかった。
そして、1つ頷くと
「……好きになりたいって、思ったって事だよ。」
大きくとも、聞き取りやすいとも言えない声だったが、
一言、一言、丁寧に強く。
そう紡がれた言葉は、感じる事を罪だと戒めた龍希の素直な感情を、ごく自然に蘇らせてくれた。
もう、涙は滲みもしなかった。
その代わり笑顔が生まれるわけでもなかったが、
それでも指先に感じる温もりは優しく、
2人は無言でしばし手を離すことはしなかった。
友人のままでも構わないと、一度はそう感じたところに、
まさか叶ってしまった夢……いや、夢に見る事さえ諦めていた出来事に、
素直に喜びを表現出来ない龍希と、
戸惑いは理解できども、笑顔をのぞかせてはくれない龍希のその様子をどう受け止めていいのか解りかねた貴仁が何か言葉を探していると、
「なぁーーお。」
と、足元から鳴き声がした。
気付いた2人が足元を見ると、猫のもんたが、貴仁の足に身体をスリ寄せ、
なーお。なーお。と、何とも気持ちが良さそうに甘い声を出している。
その様子に唖然とすると、
2人は顔を合わせて「珍しい!」と声を出した。
ほぼ同じタイミングの同じ台詞に、
あははは!!と、弾けて笑う。
「……俺は、嫌われてるくらいに思ってたんだがな。」
まだ手は離さないままに、そう言った貴仁が、
そう言えば、さっきここまで連れてきてくれたのも、もんただったと、思い出した事を龍希に説明をすると
「そうなんだ、オレが寝てるよって、教えたんですかね?」
そう言うと、龍希が、先にその手を自然と離した。
貴仁はそれに気付くと、
離れきる直前に、その指先に再び少しだけ触れてから、その手を完全に下げたのだった。
「………。」
まるで、離れる指先を追うかのように、触れられた感覚が、初めて龍希の中に今日のこの事での素直な喜びを生まれさせていた。
鼻の奥が少しだけツンとして、口元は緩んだ。
嬉しかった。
たとえすぐに覚める夢でも構わないとは思ったが、
その手の暖かさと、自分を追ってくれた指先の優しさが、じわじわと浸透すると、
再び視界を滲ませるモノに気付き
「……夕飯!夕飯作りますね!」
と、発した言葉と共に貴仁に背を向けた。
そんな龍希が台所へ向かうのを見届けた貴仁は
恐らくは読まれた事にさえ気付いていないで有ろう
あの、「出されなかった手紙」をそっと元の場所へ戻す。
何重にも消された言葉と、滲んだインクが、
喜びなのか不安なのかも解らぬ、互いの今の気持ちに寄り添った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
40 / 90