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幸福という名の不安
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さて、そろそろ家に着くという頃になると
龍希は自分がどこかワクワクしているのを覚える。頬が少しだけ熱を帯びる。
不安は消える事はなかったが、
今、家を目前につい口元が緩むのは何にせよ、結局自分が幸福感を得ているからなのだと知っていた。
知らない感情として素通りしてしまいそうな程に得たことのない幸福感が、龍希の心に彩りを与えている。
一滴づつ、絵の具が滲んで重なるように、
それは彼の心を鮮やかにしていくのであった。
───なんだこれ、ムズムズする……
心の中でそう呟くと、口元をつねってみたり、叩いてみたりしてみるも、口元の緩みは無くなる所か増すものであった。
───オレ、やっぱり、幸せなんだな……
それを自覚すると、足取りは軽くなり、
会いたいと言う言葉が脳裏をこだまする。
毎日顔を見れても、今すぐ会いたい
貴仁の声が、笑顔が、何よりあの手が、自分へ向けられているのだと思える事が、たまらなく嬉しい。
先程まで気にしていた不安は、そのガチガチの輪郭が、滲む色彩によって柔らかさを得てきているかのようだった。
そして、
その気持ちのままに家の手前まで差し掛かった道端で
龍希は現実を見つけた。
それは、何を浮かれているのかと彼を戒めるかのように出現する。
そこに見たものは
今、まさに彼が戻るべき家から出てきたであろう女性。そう、言うまでもなくあの女性だ。
人はこんなにも一瞬にして気分を変化出来るモノなのだと知った。
何より、その彼女の顔の、なんて晴れやかで柔和な事か。
恋をする女性の顔とは誰でも同じに、美しく優しさを帯びるのか。
……そう、彼女は明らかに貴仁に好意を抱いている。と、確信が出来てしまう、良い表情であった。
………綺麗な、人だな。
うっかり彼女に見とれてしまう龍希は、
そこに知っている女性の面影を見た。
…………あ。そうか。香奈子さんだ。
似ている。あの人に。
多分、前から気付いていた。彼女の笑顔を見たときから。
どこか、雰囲気が、香奈子に似ているのだと言う事は、ちゃんと気付いていた。
そして、改めて認識したその現実は、もう絶望にしか感じられ無かった。
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