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第6章「終わりが始まる時」
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龍希には
勝てるはずの無い人が、別の人間として現れたように感じられた。
言葉は悪いが、香奈子がもうこの世には居なかったからこそ
追いつこうと頑張れた事も、
いざ、生身の人間として目の前にすると、何一つ頑張れない気がしてならない。
そして、この人が好きな男性こそ貴仁であると思うと、何が何だか訳が解らない気持ちに襲われた。
確実にこのままでは、あらぬ事を口走りそうな気がきた龍希は、慌てて適当な言葉でその場を凌ぎ、彼女へ会釈し、別れを告げると、
挨拶もそこそこに背を向ける。
顔がひきつった。
感じてしまった絶望感が己の行く手に鎮座している現実を認識せざるをえなくなったからだ。
そいつがあんまりにも救いようのない姿でこちらを見つめるものだから、
龍希は、ギリギリと歯ぎしりをした。
そして、もう目と鼻の先まできている家の方を見つめると、
そこで待っている貴仁を。
そして、その口が「おかえり」と動くのを想像して、奥歯をぐっと噛み、走り出した。
会いたかった。
とにかく。とりあえず今だけは自分1人を見て、
「おかえり」と言う笑顔に1秒でも早く会って、安心を得たかったのだ。
そうでなければ、こんな心など、ひび割れて粉々に壊れてしまいそうだった。
走る。
ほんの少しの距離を。
今は1秒さえもが遠く長い距離に感じられた。
1歩近付く度に心に入ったひびが1ミリ消える気がした。
門を開ける。玄関前に立つ。
もう会える。
「安心」なんてものは、自分には無縁で遠いモノだと思っていた龍希だったが、
貴仁がそれをくれた。
まだまだ、「恋人」と呼べる仲になれていなくとも、
「ただいま」と、帰れる場所があり、
「おかえり」と、迎え入れる声が聞ける事。
しかも、本当に愛している人の声で。
それは、龍希が初めて知った「安心」だったのだ。
そして、玄関を開けようとした瞬間、
その戸が自分以外の手によって開けられた。
そこに現れたのは、まさに今、想い続けていた貴仁、本人である。
自分が開けようとした戸が開いて、最愛の人が現れる。
喜びとはこういった感情か!と、強く思うほどに湧き上がる何かに身震いしそうな
そんな気持ちの龍希が、開けた戸の目の前に居た事に貴仁は驚くと
「…龍!!」
と、その名前を口にした。
そして、龍希も、その最愛の男の名前を口にしようとした。
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