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我慢
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忘れ物を取りに来ただけの女性を、
わざわざ再び招き入れるなんて。自分は馬鹿としか思えない。
それでも龍希の中で昔からずっと不必要なまでに意識してしまう、普通らしい行動。男らしく、ゲイだなて微塵も感じさせない反応、言葉、仕草。
その意識がそうさせた。そんなのは馬鹿げていると解っていても、昔からの防御策としてつい、そうしてしまう。
きっと、近年ではここまで必死に隠す人が少ないだろうというのに、龍希はどうしてもそれが出来なかった。
さて、自分で招き入れたとは言え、
目の前で嬉しそうに貴仁との会話をしながら珈琲を飲む女性に呪詛を吐く。
勝手な事など承知だがそうせざるを得ない複雑さも解っていただくとしよう。
今彼が、彼女に抱いている感情は嫉妬だ。
妬めば妬むほどそんな自分が汚く、嫌な人間に見えるくらいには、彼女は美しく優しそうで、朗らかな女性であった。
彼女は貴仁ばかりでなく、程良く龍希にも会話を振っては、その場に華を添えられる人であった。
振られた会話に笑顔を見せては、比例してうごめく汚い感情を増幅させる。
それを繰り返す龍希の笑顔は次第に疲れ果て
口からは悲鳴が漏れそうになった。
男のくせに、男らしく。
再び出てきたその言葉の合間にチラリチラリと顔を出す台詞があった。
───ギリギリまで我慢する癖無くしなさいよね。
それは、けんちゃんの言葉。
その言葉が顔を出す比率が増えてきた時に、龍希は自分のこれは、我慢なのだと気付くのだった。
この笑顔も、出した言葉も、全てが我慢だったのだ
それに気付いてしまってから改めて見る、貴仁と彼女の居る光景。
それは先刻よりもさらに酷い光景となり
適当な理由で席をたった龍希は
たまに湧き上がる二人の声に、台所で1人耳を塞いだ。
頭がグルグルとして心の底から這い上がる何かが次第に熱を帯びてくる。
憎しみだとか、苛立ちという感情は同時に、悲しみと自己嫌悪というそれをも引き連れて来るのだと知った。
解っていた。それはただの嫉妬だ。
汚い、見苦しい、気持ちの悪い、嫉妬だ。
それくらい解っていた。
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