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我慢
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「…挨拶?」
龍希の声は明らかに低く小さな声
そしてそんな龍希に何かしら違和感を感じた貴仁は、何だ?と、思わずその眉間にしわを寄せてしまった。
貴仁の、その怪訝そうな表情が龍希の気持ちに拍車をかけたのは言うまでもなく
「何で……何でオレが、あんな女に挨拶すんだよ」
口を突いて出たのは、もう取り繕えない酷い言葉。
自分で彼女を招き入れておいてこの言いようとは、
なんて我が儘で幼稚な男かと自分でも腹が立ったぐらいなのだから、無論、貴仁にそれが咎められない訳もなく。
「……?おい、龍希。何か知らんが、あんな女なんて言い方は駄目だよな?」
分かりきっている箇所を、分かりきった言い方で攻められ、龍希はもう、子供のように声を荒げるしか出来なくなっていた。
「……わかってんよ!!由紀恵さんって名前だったよね?!あんたがそう呼んだもんな!
下の名前で!親しげに、楽しそうにさ!!笑って……!!手まで……何度も手まで繋いじゃってさ!」
まくし立てた言葉は形にするならば、きっと大小様々な字体で。
細さ、太さも統一なく格好悪く、上へ下へと飛び散っていた事だろう。
それを真正面から受けた貴仁はと言えば
突然まくし立てられた言葉達と、何より珍しく感情的な龍希に、驚きを隠せずに居た。
もとい、驚きと言うべきなのか、それとも、意味そのものを計りかねていると言うべきか、
或いはその両方なのか。
それは何とも形容しにくい表情であった。
そんな貴仁を見て龍希はなおも叫ぶのだった。
「……驚いてんの?なに?平気だとでも思ったの?あんたが、あんたの事を良く想っている女の人と親しく笑って……手、繋いで!何でそれでオレが平気で居られると思うんだよ!?………香奈子さんの事でさえ、まだ上手く消化しきれないで居るってのに!!!」
ずっと消えない香奈子と言う存在、
そして現れた良く似た存在の女性。
もう、無理だ。と、思う以外の何の余力も持てなくなっていた。
そして、対する貴仁は、思わず洩れてしまった言葉を出す
「………香奈子?何で香奈子……?」
関係ないだろ? と、
小さい呟きでは有れども、聞こえてしまったそれに、
龍希の暴れる感情は、驚くほど静かになっていった。
……関係無い。そんな訳が無いからだ。
静まって行く感情と共に、龍希は幾分か落ち着いた風にその口を開いた。
「……関係、有るだろう?だって……」
そこまで言うと、
龍希は、ある事に気付いてしまった。
そう、それは己の立場という現実。
関係の無い立ち位地にしか自分は存在して居なかったのか。……と。
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