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泣くと言う事
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龍希は、真っ直ぐと向かい合ってしまった現実をただ呆然と見つめた
どれだけ、その口が恋人だと認めてくれたとしても
所詮、この人の中では自分は男で、それは彼にはやはりまだ恋愛に直結していない
女性や元婚約者に嫉妬を出来る立場にすら立てせてもらえていない。
───あぁ、やっぱり、これしかないんだな。
静かに、それら諸々を見つめ直し、
何かを頭の中で理解すると、龍希は口を開いた。
その口元はずっと震えていて、止める事など出来ない。
何故か?それは、一番言いたくはない言葉を伝えるからだ。
けれど、仕方がない。
その言葉を、震える口が紡ぎ出した。
「……貴仁さん、もう、終わりにしましょう。」
そう、それは別れの言葉。
手に入れた笑顔も、胸の鼓動も、幸福感も、
そして、この人のこの手も。
全てを手放すという意味の言葉。
「……え。」
ずっと無言で、驚く事しか出来ずに居た貴仁の喉が、ようやく声を作り出した。
それは、上手く出す事が出来ず、詰まるような、ひっくり返るような、そんな声となってしまった。
そうして、見つめたものは、
目の前の涙を流さず泣く龍希の姿。
「………っ!」
何かを言わなければ。声を、出さなければ。
そう思えど貴仁の喉は恐ろしく渇いて上手く声を生み出せない。
目の前の男が泣いている。
涙を一滴もこぼさず、口元には小さく笑みさえ浮かべて泣いている
そしてその口元は再び動くと、こう言うではないか
「嬉しかった。今日まで。幸せすぎた。ありがとうございます。」
ポトリポトリと、こぼれる涙のような言葉を発して、龍希はニコリと笑んだ。
今日、家に近くなるほど大きく感じられた幸福感
ムズムズするほどの幸せ
人を愛せる喜び。
そんな気持ちを振り返りながら、それらを全て自分自身で消し続け、泣かずに泣く龍希のその唇が、その手が、
はっきりと見て取れる程に震えていたので、
貴仁は、いよいよ何が何でも声を出さなければ、と
詰まる言葉をベリベリと剥がし
何とか声にして発した。
「……泣けよ………」
出た言葉は、それだけ
突然のそれに龍希は作った笑顔を消し
沈黙する
そして、え?と声を出すより早く
その瞳は潤んでいく。本当の涙で。
初めて見た実際の涙で滲むその瞳に貴仁は正直戸惑いを隠せなかった。
と、同時にその瞳はなんて美しいのかと思ったりもした
人の脳とは得てして妙である。
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