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泣くと言う事
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そんな妙をどこかで感じながらも、貴仁の脳裏に浮かんだのは
自分が見た事のある限りの幼い頃の龍希の姿。
施設からの一時帰宅、いつだって母親の姿を追っている瞳は常に何かを無言で訴えているようだった
そして、その瞳は、中学になっても、高校になっても涙に滲む事は一度だって見た事がなかった。
いつも笑顔で、明るく人懐っこくて、
家庭に不和が有るなど、知らない者も多かっただろう。
あの頃の龍希は、泣けば何もかも消えてしまうと信じていた。
自分を虐めた父親を母が泣く泣く遠ざけたように
あなたのせいであの人と供に居れないのだと母が憎しみはらんで見つめてきたように
遊びに行くよ、と握ってくれた母親の手が、養護施設の前で離されたように……
泣けば愛が消えるのだ。と思わずにいられなかったのだ。
その涙を封じた瞳が、
愛する相手に泣けと言われて大きく滲み
ボロリ、といよいよ大粒のそれをこぼした。
すると、震える声を絞り出すように言うのだ
「……嫌なんだ……」
涙で少し荒れた声は続けた。
「…本当は、嫌だ……嫌だぁぁぁ!!!!」
うわぁぁ!!!と、最後のそれはもう、声になっていないかのようで。
龍希は、叫ぶように、吐き出すように言葉を並べると、
貴仁に詰め寄り、彼の服を掴む
「……やだぁ!!今の嘘だ!……全部、全部嘘だから!……オレ、終わりになんて、したくないっ!!だって、やっと手に入れたのに!貴方の手、笑顔も、おかえりの言葉も、……だってオレ凄く幸せだったんだ!!!」
震える脚は既に力無く削れかけていて
それでも龍希は大事そうに貴仁の手を握りしめた。
ボロボロと涙をこぼして、
ふぅ、ふぅ、と荒くなる息から出されるのは、同じく荒れた言葉達。
「もう、やだ……嫌だ、イヤだ!!だって、気付いちゃったよ!?……我慢だって、気付いちゃったじゃないかよ……」
見た事が無い程にボロボロに泣くその顔は
涙なのか、鼻水なのか、何なのかなんてどうでもよくなるぐらいにぐちゃぐちゃだ。
ひっ、ひっ、としゃくり上げるように息をする龍希は、包み込むように握った貴仁の手へ、罪人のような顔で、間違って触れたかのようなキスをした。
そして、力無く削れ落ちると膝を付いて俯き言った
「……オレ、好きな人を好きでいたいよ、……貴仁さんがいい!……貴仁さんが………」
そして、さらに小さな声で、「愛が、欲しいよ…」
言ったそれは、宙に舞う間もなく、消えているのではないかと言うほどに削れていた。
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