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飛べない籠の中の鳥【榎月】*09
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ち、違います。
それは誤解ですよ、ちなはさん。
さっき、唇を触ったのはそういう意味ではなくて…
唇が切れて痛々しいと思ったからで。
決して、あなたにキスを催促した訳では…
ないはずなのに。
「…それでは、どうぞごゆっくり。」
ちなはさんが目を細めて微笑むと、きいやさんと一緒に脱衣所から出て行く。
言いたい事は山ほどあるのに、なかなか言葉が出てこない。
それがもどかしくて、溜め息を吐いた。
脱衣所に一人取り残され、胸に手を当てる。
あんな方法で口止めしなくても誰にも言わないし、誰かに言えるはずもない。
なんて言うか…
あの人は、本当に…
「…タチが悪い。」
何故か見詰められると、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。
すっかり戦闘態勢になっている自分の身体を恥ずかしく思いながら、こもった熱が冷めるまで水にしたシャワーを頭から浴び続けた。
ようやく落ち着いて部屋に戻ってみると、ちなはさんが手際良く鮭の塩焼きをグリルで焼くのが見える。
「私も入ってくるね。」
きいやさんが急ぎ足でお風呂場に向かうのを見送り、炊きたての美味しそうなお米の香りがする頃には、三人が食卓に揃う。
リビングのテーブルに、一汁三菜のバランスの取れた夕飯が並んだ。
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