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倦怠感/心の色(23頁)
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「……くそっ!」
やり場の無い怒りを前に、こぶしを握ることしかできない。
ため息を着くと、途端に虚しくなった。うずまいた不安や寂しさを肉体で紛らわそうとした罰だろう。
今日はもうなにもせず、また寝てしまおうと考えていたときだった。
突然、玄関のドアがドンドンと激しく叩かれる。すると外から、
「――龍広くんっ!」
と、呼ぶ声が聞こえた。声の主が誰かはすぐに分かった。
心臓が痛いくらいに強く鼓動する。
「――龍広くん!」
少し迷ったものの、合わせる顔はないに決まっている。
ここは無視するしかないと布団に潜り込んだものの、
「龍広くん!? ねぇ! いるよねっ!? 開けてよ! 開けてっ!」
声は次第に切羽詰まっていく。
只事ではなさそうだ。このまま気づかないフリを続けるには無理がある。仕方なく、起き上がった。
ドアを開けると、
「あーっ、良かったあ! まだ生きてたあっ!」
間髪をいれずに悲鳴が飛んできた。
そのあまりの声量に頭を射抜かれ、めまいがするようだった。睨みつけようとしたところで、ハート模様がみっしり詰まったTシャツが目に飛び込んでくる。
その蛍光の黄色とピンクがあまりに鮮やかすぎて、余計にめまいが酷くなる。
「バカが……。生きてるに決まってるだろ。騒ぐな」
チラついてしょうがない目をおさえ、掠れた声で返す。
「そんなの、分かんないじゃん!」
と、叫び返してきたのはもちろん響だ。
「ひとりぼっちで死んでたらどうしようと思ってさあ!」
「大袈裟だ」
普通なら、真っ先にカゼを疑うだろう。孤独死なんて最悪の事態すぎる。
「……でも、万が一ってことがあるじゃん」
最近ニュースでもそういうの多いし、と、ブツブツ言いながら彼はスニーカーを脱ぎ始めた。
「あーあ。安心したら疲れたあ」
まさかと思ったが、部屋へ上がり込んでくる。なんの躊躇も無しに。
「お、おい……!」
「アイス、食べないと溶けるから」
と、コンビニ袋を高々とかかげて彼は言った。
本当に俺が死んでいたら、そのアイスは一体どうしたのだ――とは聞けなかった。
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