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医学書の本棚や、星関係の本棚など、くまなく見て回ったが店員の姿がない。
そこで店の奥のレジへを目指した。
本を探すふりをしつつ、棚の影からレジを見やる。
三台あるうちの一台が開いているようだが、ちょうど客がいる。ここからでは店員の顔は見えない。
響だろうか、もしくは他の誰かだろうか。
手に汗を握りながら接客が終わるのを待っていたのだが、
「ちょっと」
突然、後ろから肩を叩かれる。
女の店員が厳しい表情でこちらを見ていた。
客がレジを気にするのは不審すぎたか。しかし、犯罪を疑うには早過ぎやしないか。
俺はうろたえながらもその女を観察してしまう。
やけに背の高い女だった。俺と視線の高さが合っている。その足元はスニーカー。
響が好みそうな派手さは皆無だ。この女はきっと違う――、
「アンタ、龍広でしょ」
思考をさえぎったのは、予想だにしなかった一言。
奇妙な感覚と共にハッとする。反射的に右胸の名札に目がいく。
“尾津”の文字。
「おづ……、たかこ……」
記憶の底から懐かしい名が蘇った。
「へぇ。ちゃんと覚えてくれてたの? ゲイなのに」
他者を蔑むツンとした表情。数年ぶりの再会とは思えぬ、高圧的な物言い。
「……変わってないな、お前」
「お互い様ね」
ベリーショートの髪。鋭く短すぎる眉。涼しさと気だるさが混じる両の目。ニヤけた唇の間からのぞく八重歯。
赤茶の髪色とわずかに化粧っ気があることを除けば、昔の雰囲気そのままだ。
――尾津 貴子(おづ たかこ)。
中学時代の同級生である。
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