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「代わり……?」
左薬指の指輪が脳裏をよぎる。
「それでね、その彼女が――」
「……塩田まほ」
唇の間から勝手にその忌々しい名がこぼれた。
「あれ、名前教えてたっけ?」
しまった――と、思ったが、彼は不思議そうにするだけだった。自分が教えたと思ったらしい。特に追求してこなかった。
「――そう、塩田まほちゃんっていう子なんだよね。ちょっと慌てん坊だけど、素直でいい子なんだ。でも……」
彼はそこで言葉を区切った。
掠れていく喉に、水を少しだけ流し込む。
「彼女はまだ前の恋人のことが大好きみたいで」
表情を変えることなく、淡々と説明してくれる。
「……どうにか忘れたくって、ボクを選んだんじゃないかな……。たぶん……」
まるで他人事みたいに。
まるで何も感じてないみたいに。
「あくまで憶測だけどね!」
「響、お前……」
「でも心配しないでね。ちゃんと付き合ってるから。しっかり考えないで了解しちゃった手前もあるし、その子の良いところ、たくさん知ってるし」
確かに表面的には笑っている。
けど、俺には分かる。
どんなに誤魔化したって、俺には分かってしまう。
彼は今、苦しんでる。
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