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響は颯爽と全集をめくり、颯爽と読み始める。
案の定、その勢いは一分ももたなかった。
息継ぎのように本から顔をあげ、眉間にシワを寄せるなり、
「ねぇ、これ何?」
第一文目にある漢字の読みと意味をたずねてきた。一度だけでは済まず、それから何度も何度も。
俺が本に集中できないだろと注意しても「分かんないんだもん」と譲らない。
「辞書引け」
「聞いたほうが早いじゃん」
俺は響の辞書代わり。
呆れたものだが、悪い気はしない。
適当に返事をしていれば自分の本に戻――れると良かったのだが、彼はまたすぐに話しかけてきた。
「ねぇ、じゃあこれは? なんて読むの? どういう意味?」
「お前なぁ……」
悪態をつきたくなったが、我慢だ。
俺は彼の辞書として仕方なく、どれどれと本を覗き込む。
どんな言葉でも分かりやすく説明してやる気でいた。
だが、その文字を見た瞬間、グッ、と喉が詰まってしまう。
「ぶ、文脈とか、じっ、字面で分かるだろ、こっ、ここ、こんな、の……!」
「わかんないから聞いてるんじゃん」
響が指差している文字は。
その文字は。
“貞操”だった。
「って、……てぇ……、い、そ……」
「え、ナニ? 聞こえない」
映画ではチャンバラが始まったらしい。
男たちの怒号が飛び、ぶつかり合う刀の音が激しくなる。
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